雪の約束

「雪が降ってきましたよ、プラチナ様。」
そう言い、ジェイドがカーテンを開けると、外には天使の羽のような雪がふわふわと降っていた。
アレクに王位を譲ってから3年。雪の降らなかった年はない。
「兄上は雪が好きだからな。」
「本当に、いつまでたってもお子様ですよねぇ。あの人は。」
きっと昼には積もり、アレクやプラムが雪合戦をして遊ぶに違いない。
ベッドの上ではその光景を見られないのが残念だけれど。
ぼんやりと窓の外を眺めているプラチナに、ジェイドはくすりと笑った。
「雪が積もったら、雪だるまでも作ってきてさしあげましょうか?」
「雪だるま?」
「去年、アレク様が雪うさぎを作ってきてくれたでしょう? あれと似たようなもんです。」
去年、風邪をひいたプラチナに「お見舞い」と言って作ってくれた雪うさぎ。
ベッドのサイドボードに置いておいたら、30分で溶けてしまった。
「溶けてしまわないか?」
「雪ですからねぇ。そりゃ溶けるでしょう。」
「…せっかくお前がくれるものなのに、溶けてしまうのは嫌だな。」
「…………あなたっていうひとは。」
ジェイドが大袈裟に溜息をついた。
そんな様子に、何かまずい事を言ったのかとプラチナは焦った。
「なにかいけなかったか…?」
「いいえ。ただ、そんな可愛らしいことを言わないで下さいよ。あなたの為でしたら、そんなものいくらでも作ってさしあげますから。」
「…って、お前仕事は…。」
「仕事なんかより、今はプラチナ様のほうが大切でしょう? 今日は雪だるま要員になりますよ。」
ジェイドはバルコニーに出ると、手すりにわずかに積もった雪をすくい、小さな雪だるまを作った。
「はい、第一号です。本当は大きな雪玉を使って作るものなんですけどね。さすがにここでは無理ですから。」
「そうなのか。」
渡された雪だるまを興味深そうに見つめるプラチナ。
王位を退いてから、プラチナはこういった遊びにも興味を示すようになった。もちろん口には出さないが。
外見は大人でも、中身まだ生まれてから10年も経っていない子供。これが普通なのかもしれない。
興味を示し出した時点で、もう遊べない身体になっていたというのに。
サフィルスのように、甘やかして育てればよかったと思っている。もう遅いけれど。
「……今年は無理かもしれませんが、来年、雪が降ったら作ってみます?」
「お前と一緒にか?」
「お嫌ですか?」
「いや…楽しみだ。来年…、だな?」
「ええ。ですから……それまでに、身体を治してくださいね。」
「努力する…。」




きっと、来年の雪は見れない。

それでも約束が欲しかった。

あなたをここに繋ぎ止めておく、何かが欲しかった。