契約条件

「私のことが……好き、ですって?」
ジェイドの冷たい目に怯みつつも、プラチナは小さく頷いた。
「そんな感情、王に必要だと思いますか? そんなもの足枷になるだけで、なんの得もない」
「わかっている」
「わかっているなら、なお質が悪い。まったく、そんなふうに育てた覚えはないんですけどねぇ。王は力の強さだけでなく、心の強さも求められる。誰かに依存する、そんな弱い王なんていらないんですよ?」
「わかっている! わかっている…。ただ、お前に伝えたかっただけなんだ…。別に、何も求めたりはしない…」
拒絶されるのは分かっていた。しかし、これほど酷く言われるとは思っていなかったプラチナは、俯き地面を見つめた。
「…………いいですよ」
「…え?」
顔を上げ、ジェイドを見る。
冷たい目はそのままに口だけは笑っていて、プラチナは寒気を覚えた。
「あなたがそう望むならいいですよ。恋人になってさしあげます。私は貴方の下僕ですからね。拒否する権利などない」
「ジ、ジェイド…?」
「こんな戦争をしているせいで、女を買いに行く暇もない。手近な所に解消できる相手がいるというのは楽でいいですしねぇ」
「……っ」
ジェイドが一歩踏み出し、プラチナが一歩後ずさる。
テントの壁まで追い詰められた。
「いいですねぇ、その表情。貴方の顔、好きですよ? 天使でもここまで綺麗な奴はいない」
(天使…?)
ジェイドの物言いにひっかかる所があったが、目の前にある顔に、目に、思考を奪われた。
「あなたが好きですよ、プラチナ様。…勝っているうちは、ね」




勝っているうちは―――――。






「本当にそんな事言ったんですか、あなたは!!」
「ああ。確かに言ったな」
あれから約1年。継承戦争はアレクの勝利で終わった。
現在プラチナはアレクの希望により、宰相として働いている。
平和になった奈落。
しかし、ジェイドは大変なことを忘れていた。
それに気付いたのはサフィルスだ。
「ジェイド。今はその、プラチナ様のこと…」
「好きにきまってるだろ。でなきゃ傍にいない」
「それ、ちゃんとプラチナ様に伝えました?」
「?」
肝心な所がヌケているジェイドに、サフィルスはがくりと肩を落とした。
「その時のあなたの言い方だと、負ければ恋人関係は解消ってことになりますよ。プラチナ様はアレク様に負けた。…これがどういうことかわかりますよね。プラチナ様は、あなたにフラれたと思ってますよ。きっと」
「―――!!!」

(ちなみにアレクディスクなので「…傍に」イベントはやっていない)

「ま、まずい…っ!」
「まずいですね〜。プラチナ様、結構モテますよ? カロールさん、ロードさん、プラムさんにジルさん…。み〜んなプラチナ様狙いですからね。あ、私はアレク様一筋ですけどv」
サフィルスの言うことなど、もう聞いちゃいなかった。

執務室に駆け込んだジェイドは、中にいたアレクを放り出し、勢いよくドアを閉め鍵をかけた。
外に追い出されたアレクは暫くドアの外で騒いでいたが、それはサフィルスによって回収される。

小一時間ほどして、ジェイドとプラチナが部屋から出てきた。
ジェイドはそれはもう嬉々とした表情で。
それに対しプラチナは、真っ赤になって俯いて、今にも泣きだしそうな顔で。
「では、兄上様に報告しにいきましょうか」
「あ…………あほう…っっっ!」
「はいはい、俺はあほうですよ」
「う…」
プラチナの手を引き、アレクの元へと歩き出すジェイド。


その後、城中に奈落王の悲鳴が聞こえたとか聞こえなかったとか。