04:カレー

カレー
カレー
カレー

カレーばっかり、なんでこんなに…


あの日、カレーを食べることを拒んだ為にサフィルスにカレーをぶっかけられたアレクは、すっかりカレー嫌いになっていた。




「…………うっ」
プラチナの部屋中に漂うその臭いに、たまたま部屋を訪れたアレクは吐き気をもよおした。
思い出したくない、あの臭い。
気力を振り絞って部屋に設置されているキッチンへ行くと、そこにはサフィルスと2人でカレー作りに勤しんでいるプラチナの姿があった。
エプロン姿がとてもかわいい………じゃなくて。
「サフィィィィ〜。プラチナぁぁぁぁ〜?」
「あ、アレク様」
「兄上」
アレクの呻くような声に、サフィルスは天使の笑顔で、プラチナは少し驚いたように振り向いた。
「………聞くまでもないと思うけど、何してるの…?」
「何って、カレーを作っているんだが」
「はい。見ての通りです」

「『見ての通りです』じゃなぁぁぁぁぁいっ!!!」

ボカッ
癇癪を起こしたアレクがサフィルスを殴った。
「ひ、ひどいですよアレク様〜〜〜」
「うるさい!俺がカレーを嫌いなのを知ってるくせに、なんでプラチナに作らせてるんだよ!!」
「兄上が嫌いだと言うから作っているんだが」
「へっ?!」

(もしかして俺、プラチナに嫌われてる!?)

鍋いっぱいのカレーと、お玉を手に持っているプラチナを交互に見やった後、アレクの赤い瞳に大粒の涙が溢れた。
それを見たサフィルスはアレクがとんでもない誤解をしているのに気付き、慌てて弁解をした。
「違いますよアレク様!プラチナ様はアレク様の好き嫌いを直す為に………」
「俺がカレー嫌いになったのはお前のせいじゃないか!うわ〜〜んプラチナぁぁ〜っ」
「あ、兄上…」
誤解だということはわかったものの、一度溢れててしまった涙はそう簡単に止まるものではない。アレクはそれを利用してプラチナに泣きついた。当然プラチナはアレクを引き剥がすことなどできず、されるがままになっている。
「俺がカレーを作っていたのは兄上が嫌いだからじゃない。俺が作ったものなら食べるのではないかとサフィルスに言われてな…」
「え、じゃあ本当に俺の為に?」
「ああ」
顔を上げたアレクの瞳に涙がないことに、プラチナは安堵して微笑む。
「食べる!プラチナが作ったものならなんでも食べるよ、俺」
「プラチナ様に頼んで正解でした。これでアレク様がカレー嫌いを克服されれば、私のカレーも食べて頂けるように…」
「お前のは食べない」
「ア、アレク様〜〜〜〜〜」
ガーンという効果音と共に、サフィルスは情けない声を出しながら沈んだ。


キッチンの隅に座り込んでいるサフィルスを無視し、アレクは果物が入っているカゴを漁り、アボカドを1つ取り出した。
「俺がアボカドの皮をむいたら、プラチナは食べてくれる?」
「……………………………兄上が用意してくれたものなら、食べる………」
「本当? よ〜し、一緒に苦手なものを克服しよう!」



この日、アレクとプラチナは見事克服に成功した。
ただし、アレクはプラチナが作ったカレー。プラチナはアレクが用意したアボカド限定ではあったが。