88:最近の王子様

「うーん…」
銀の髪がさらさらと滑り落ちる。
天気の良い昼下がり、プラチナの私室でアレクは弟の髪と格闘していた。
二人は執務の合間をぬって仮眠をとっていた。
寝る時、二人は髪を解く。
予定より早く目覚めた二人は、まだ迎えに来ない己の参謀の代わりにお互いの髪を結い合っていた。

アレクの髪はプラチナの手により、綺麗に纏められている。
問題はプラチナの髪だった。長く滑りの良い髪はアレクの手からどんどん滑り落ち、とても纏められそうにもなかった。
いつものように頭の高い位置に持って行っては落ちていく髪。いつもジェイドはこれをどうリボンだけで結っているというのか。

「兄上、できないのならいい」
「やだ。俺がやる!」

何をムキになっているのか。
アレクは諦めることなく、プラチナの髪に櫛を通し、懸命に纏めようと奮闘した。


アレクといい、ジェイドといい、何故こんなにも髪にこだわるのか。自分の髪に頓着しないプラチナにはわからなかった。

だけど少しだけ。
アレクの髪を結っていた時。

触り心地の良い髪。
“頭を預ける”という、相手への絶対的な信頼。

プラチナは結われるばかりで、今まで結う側の気持ちは考えた事もなかったが、悪くはないものだと思った。


背後では未だアレクが唸り声をあげている。
櫛が髪を通る感覚が心地よく、プラチナは再度眠りに落ちそうになった。

きっとこれは参謀が迎えに来るまで続くのだろう。
そしてアレクとジェイドのいがみ合いが始まるのだと、容易く想像ができる。


部屋の中がうるさくなる前に、もう少し。

暖かい春の陽を浴び、兄に身を任せながら、プラチナは微睡んだ。