南南東


目の前に突然差し出された、黒い謎の物体。
何かの食材だろうか。それを包むように、米と黒い紙のようなものが巻かれていた。見た事のない食べ物だった。
「食わないの?」
そう訪ねてきたのは、その物体をこちらに差し出しているジタンだった。今は飯時ではないし、やけにニヤついているしで、嫌な予感しかしなかった。
「なんだ、これは」
スコールがとりあえず聞いてみると、ジタンは待ってましたとばかりに笑みを深める。そしてその物体をスコールに無理矢理手渡した。
「今日はこの食べ物を食べる日なんだってさ。方向は…あっち?」
ジタンは適当な方向を指差す。
「むこうを向いて、目をつぶって、願い事をしながら食べればその願いが叶うっておまじない?食べきるまで喋ってもいけないんだって」
だからなぜそれを、俺が。
「みんなやってたぞ?」
心の声を読んだかのようにジタンはそう言い、太巻きをスコールの口へ軽く押し付けた。そしてその反対側に軽く口付け
「スコールの分、俺が作ったんだけど」
それでも食べてくれないの?と言外に語れば、惚れた弱みも手伝い、仕方なく口をつけることになった。

(それにしても、これは…大きすぎないか?)
律儀に目を瞑り黙って食べているが、この物体が減る様子もない。
(それに…)
部分的に脆い場所があり、米が落ちて手についてしまう。しかし目を開けても口を離してもいけない決まりのせいで、その米を除去するこができなかった。
しばらくその状態のまま食べ進めていると、ぴちゃり…という音とともに、指に温かく湿ったものが触れた
「……っ」
「だめだって、口離しちゃ」
至近距離からジタンの声がする。指を舐められたのだと気付き、スコールの顔が紅潮した。
「ほら食べて食べて」
戸惑っていると、続きを促される。
スコールはジタンの舌が指に触れる度、肩がびくりと震えていた。



(律儀なやつだなぁ…)
いたずらに耐えながら食べ進めるスコールに、ジタンがくすりと笑った。そんな頑なに決まりを守らなくてもいいだろうに。そんな生真面目さも好きな部分ではあるのだが。
崩れやすく作ったのは、もちろんわざとだ。
ただ困らせてやろうと思ってそうしただけなのだが、一生懸命太巻きを食べる姿があまりにも可愛くて、思わずいたずらをしてしまった。
スコールの食べる速度が徐々に落ちてくる。いい加減、腹に溜まってしまったのだろう。
それでも食べきろうとする姿に少し嬉しく思い、手伝ってやるかと反対側にかじりついた。
スコールの肩が、この日の一番、揺れた。





ついったーで恵方巻について考えてたら思いのほか萌えてしまいまして(笑)
短いですが節分当日なので急いで書きました。このあとは年の数分の豆プレイですね…書きませんけど。
あとこれ、89です。