隣の芝生は青くない

※ツイッターで『4thジタン×ノーマルジタンで、4thはツンでSっ気を』…というお話をもらって暴走したネタです
 ノーマル8×ノーマル9、4th8(レオン)×4th9。レオンは格好だけでなく実年齢も25歳です。色々捏造につきご注意ください。



そこには秘密の場所がある。
木々が生い茂り、誰も近づこうとしない森の中。
鬱蒼とした木々をかき分けて行くと、その中央部は薄暗い森の中とは思えないほどに開けていて、小さな湖と大きな木が生えていた。降り注ぐ日光に、そこだけが明るく暖かい空気で満ちていた。
湖のすぐ横にある木の根元に寄りかかり座っている、黒いマントを着た少年がいた。マントから覗く尻尾がぱたぱたと揺れ、彼の機嫌の良さが見て取れる。
暖かい日差しに、自然と瞼が落ちる。そのまま眠りに落ちそうになったが、がさがさと茂みを掻き分ける音に気付き、それは叶わなかった。
音の方に視線だけを向ける。こんな風にここに現れる人物は決まっていた。
案の定、茂みからひょっこり出てきたのは、自分と同じ姿形をした尻尾の生えた少年。明らかに違う所といえば、自分と違っておそろしく薄着な所くらいだった。

何時のことだったか、いつものようにこの場所で昼寝をしていた時にこの尻尾は現れた。仲間と宝探しをしているうちに此処にたどり着いたらしい。
向こうは自分と同じ顔をした人間がいることに驚いていたが、自分はといえば、このおかしな世界に迷い込んでからは何が起きても不思議ではなかったため、さして驚きもしなかった。
そして何が気に入ったのか、時折ここを訪れては他愛のない話をしていく。たぶん今日も、また。

「今日はあったかいな〜」
太陽を眩しそうに見上げ、伸びをしながらこちらに向かってくる少年に、尻尾を動かすことで応える。
その反応に彼は目をまるくし、すぐに笑った。
「今日は機嫌いいんだな」
そう言うと嬉しそうに駆け寄り、自分へと擦り寄ってきた。
彼と違うのは服装だけではなく、性格にも大きな違いがあるらしい。少なくとも自分はこうやって笑って他人に擦り寄ることはしないはずだ。
「なあ、その格好…暑くない?」
勝手にマントに潜り込んできたくせにこの言いよう。
「俺はおまえと違って体温が高くないから、暑くない」
暗に子供体温をバカにしてやると、わかりやすくむくれる。そのままずるずると下にさがり、膝に頭を乗せてきた。
「お前が寒がりなだけだろ…もう。ちょっと寝ていい?」
そう言うと、良いとも悪いとも答えないうちに寝息をたて始めた。人の昼寝を邪魔しておいて…とも思ったが、彼はここではない場所で戦いを続けているという話は聞いたことがある。そこではよほど質の良い睡眠がとれないのか、こうやって寝ていくことが時々あった。
いくらここが暖かいとはいえ、寝ている人間に外気は冷えるだろう。はあ、とため息をついて自分の着ているマントを彼に被せてやった。
こんな事は滅多にしない。この分身のような少年が気に入っているのだと気付かされる。
自分になついた野良猫を可愛がる感覚だな、と薄く笑みを漏らした、その時。頭上に影がかかった。
ハッとして上を見上げると、銀の髪に紫色のボレロ、そしてなんとも形容し難い下半身の男が宙に浮かび、こちらを見下ろしていた。
「ジタンが2人…?」
ふるふると男の肩が震える。敵意は感じなかったが嫌な予感がして、もう一人の自分をそっと地面へおろし、無言で武器を取り出した。
「ジタンが2人…!」
男にはこちらが臨戦態勢なことに気付いていないらしい。何かに悦んで自分自身を抱きしめ身震いをしている。非常に不愉快だった。自分にだけでなく、横で呑気に寝こけている彼に対しても良くない感情を持っているのを感じられて、余計に。
悶えながらこちらに急降下してくる不愉快な物体に向かい、すっと片腕を突き出した。自分を中心に陣が浮かび、風と閃光が迸る。
そして男が悲鳴をあげて吹っ飛んでいくのと、騒ぎに気付いて彼が目をさましたのは同時だった。
「え、なに…?」
寝ぼけ眼な目を擦りながら体を起こす。自分が側にいて、襲来した相手に敵意がなかったとはいえ無防備すぎるだろう。
あの不愉快な物体の説明をするのも億劫で、「べつに」と言ってその場に座り直す。
その燕尾服に、自分がマントを借りていたことに気がついたようだ。
「あ、ごめん、寒かっただろ?」
「…べつに」
とは言っても彼は自分の寒がりっぷりを知ってしまっている。慌ててマントを掴み、こちらへ渡そうとした。
その手が止まる。
「…?」
「その首…」
彼の視線が首もとにいっていることに気付き、ああ、と理解した。
マントを脱いだせいで露になった首。そこには絞められたような赤い痕が残っていた。
「昨日首絞められたからな」
「え、え…、レオンに?」
レオンというのは、向こうでいうスコールのことだ。どういうわけか、レオンだけは姿も年齢も向こうのスコールとは異なっていた。
彼がスコールと供にあるように、自分はレオンと供にいる。
「驚くようなことか?まあ、昨日はやりすぎて意識なくなりかけたけど」
「って…、お前そういう趣味…?」
ああこれは、かなり誤解されている
「たとえばこうとか」
思案気に揺れる彼の尻尾の付け根を掴み、ぎゅっと力を込める。すると「ひぃっ」と悲鳴をあげて逃げようとするが、それを許さずに更に力を込めた。
「スコールにこういうことされる?」
「さ、されるわけないだろっ!離せ!!」
よほど痛いのか、目に涙を浮かべながら抵抗される。仕方なくその尻尾を離した。
「痛いよな。俺もべつに痛いのがキモチイイって趣味はないから普通に痛いし、痛いのは嫌なんだけど」
言いながら首の痕に触れてみる。できたばかりの痕は少しだけ痛んだ。
「自分のしたいこと我慢して優しくするだけなんて、俺は信じないんだよ。補食本能むき出しにされたほうがいいだろ、わかりやすくて」
そのせいで痛くされるなら別に良い。そう言うと戸惑ったような顔をされた。
「お、俺、スコールになにか我慢させてるのか?」
「さあ?優しく抱きしめてもらってイイコイイコされて満足ならいいんじゃね」
「…うーん…」
手を口にあて、難しい顔をして考え込む。彼がそうしている間に、視界の端に黒い人影が2つ見えた。
いつまでも戻らない自分達に、迎えがきたのだ。



気が付けば日は傾きかけていた。急激に下がってきた気温に身震いをすると、マントを拾い上げたレオンが無造作にそれを被せてきた。
「寒さに弱いくせに、勝手に脱ぐような真似をするな」
「べつに、自分の服くらいどうしたっていいだろ」
威圧的な言い様にムッとして答える。しかしレオンにはそんな言葉は響かず、強引にマントの前を合わせてくるばかりだ。リボンをきつく縛られて、少し苦しかった。
一方、隣ではスコールが自分の上着を彼にかけてやっている。「別にいらねーよ。お前が寒いだろ」とやんわり断っているが、スコールは譲らなかった。仏頂面から心配気な様子が透けて見える。
こちらとは随分な違いだ。それが羨ましいなどとは、全く思わないけれど。