雨の日


テントの幕に水と氷が跳ねる音がする。外の天気は雨。時々みぞれも混じっていて、水音は喧しさを増す一方だった。
毛布ごしにその音を聞きながら、ジタンはその毛布の本来の持ち主にしがみつく力を強めた。“向こう”の自分は雪になったらバッツと雪合戦をやるんだと楽しみにしていた様だが、このみぞれでは無理だろう。
「こんな寒い日に外に出たいとか信じらんねぇ…」
外ほどではないとはいえ、テントの中でさえ息が白くなるような気温だ。あの薄着で雪の中を駆け回る彼の姿を想像するだけでも寒々しい。
「…おい」
毛布に埋もれ、より暖をとろうともぞもぞしていたら、毛布の持ち主兼暖房器具のレオンが不満げな声を上げた。その声にジタンはもぞりと顔を出し、間近の顔を見上げる。レオンは上半身を起こしていて、ジタンはその胸元に凭れ掛かる形で寝ていた。
「なんだよ」
「寝るのは勝手だが、このままだと俺が起きれん」
「どうせ雨で外に出られないんだし、起きる必要ないじゃん」
そう言い、また毛布へと潜り込む。ジタンの好きにさせてやるのか、レオンは大きなため息をついただけで特に行動を起こす事はなかった。
「そういえば、あいつも温かかったな」
レオンの胸元に頬を押し付けながら、ぽそりと呟く。
「向こうの俺、湯たんぽみたいでさ。抱えてるとあったかくて眠くなる…」
まどろみながら先日のことを思い出す。子供体温が気持ちよくて抱えたまま寝そうになり、慌てた様子で起こされた。
そんな事を思い出していたせいか、レオンの目がすっと細くなった事に気がつかなかった。
突然毛布を剥がされ、仰向けに床に押さえつけられる。加減なしに体重をかけられ、地面に背中を打たれた衝撃で息が詰まった。
「うっ…」
咳き込むのにも構わずに、一回り以上体格差のある男に肩を掴まれる。骨の軋む感覚に呻きそうになるのを堪え、ジタンはこんな暴挙に出たレオンを睨み上げた。
「毛布、返せよ」
寒い、と、暴力には一切触れずにその不満だけを訴える。
「こんな物でなくとも、暖をとれれば何でもいいんだろうお前は」
そう言い毛布を離れた場所に投げ捨てる。ジタンは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに意図を察し、口元をつり上げた。
「へえ。あっためてくれんの?やってみれば?」
ジタンは笑うと自分の肩にかかった手を外し、レオンの首に腕を絡ませた。身体を起こしその首もとに口を当て、人よりやや発達した犬歯を押し付けた。
つぷ、と牙が皮膚に埋まる。ひどくゆっくりと皮膚を裂き肉に到達するが、レオンは眉ひとつ動かさない。
牙を抜き、滲み出た血を舐めていると、レオンの手が尻尾の付け根へと伸びてきた。
「ひっ…、ぅ…っ」
急所である付け根を思い切り掴まれ悲鳴を上げそうになる。しかし口を塞がれるように口付けられ、それはお互いの口内へと消えた。
血の味がする唾液を交換しあう内にも尻尾を掴むことはやめず、ギリギリと締め上げられる。ジタンは痛みと本能的な恐怖にレオンの腕に爪を立てた。
空いている方の手で顎を掴まれ、口を無理矢理広げられ、肉厚な舌が喉の近くまで侵入してきた。その舌が牙に触れ傷つき、鉄の味が濃厚になる。
やがて息苦しさに意識が朦朧としてきた頃にようやく開放され、ジタンは嘔吐きながらレオンの胸に倒れ込んだ。
「は、はぁ…」
そのまま脱力しそうになるのに耐え、震える手でレオンの下履きに手をのばす。前を寛げ、まだ堅さを持っていないものを取り出し、口に含む。小柄な身体の小さな口では完全に銜え込むのは厳しく、大きく広げた顎が酷く痺れた。
「…ふ、ぅ…」
「……っ」
「う、ぐぅ……っ」
やがて限界に近づいたのか、レオンがジタンの髪を掴み、自分のほうへと押し付けてきた。しかしジタンはそんなに簡単にイかせてたまるかと、根元を両手できつく握り絞めてせき止める。
「…、おい…」
「ぅ、う…」
何度喉を突かれても、頑なに手を離そうとはしない。レオンはそんなジタンに舌打ちをすると、銜えられていたものを勢いよく口から引きずり出した。
「…っげほ、」
急に自由になった呼吸にジタンが咳き込む。レオンはその身体を再度地面に押し付けると、ジタンの下半身の衣服を取払い、何の準備もできていない後ろへと自身を押し当てた。
「あ、うあぁっ」
性急に身体を割られ、これまで堪えていた悲鳴があがる。ジタンの唾液で濡らした程度では到底滑りは良くならず、挿入には時間がかかった。
「ひぅ、う…」
小さい身体に過ぎた質量を無理矢理ねじ込まれて行き、痛みと苦しさで涙が溢れてくる。
痛さばかりが際立ち、苦しいだけの行為。
しかしこれを嫌だとは一度も思ったことはなかった。
見上げると、普段は澄ました顔が余裕なさげに歪んでいる。この男が理性を手放す瞬間が好きだった。
額に浮かぶ汗をぬぐってやろうと手を伸ばすと、その手首を掴まれ地面に縫い付けられる。その勢いのまま強く突き上げられた。
そして先ほど自分がしたように、首元を噛み付かれた。
「はぁ…、」
こうやって補食されるような感覚と、この後に与えられるであろう刺激を思うといやでも身体が熱くなってくる。
きっとこの感覚は“向こう”の自分達にはわからないだろう。





素肌に毛布が気持ちいい。
一度意識が浮上しかけたが、その心地よさと近くにある人肌の暖かさにもう一度惰眠を貪ろうとした時。
「…ぐっ……っ」
思い切り首を絞められ、嫌でも覚醒させられた。
首に手をかけられたのは一瞬であったが、的確に器官を押さえ込まれ、咳き込んだ。涙目になってレオンを睨む。
「いつまでも寝てるからだ」
しれっとそう返され、はぁとため息をついた。
「俺、そのうち本当に絞め殺されるんじゃねえの…」
「……殺してやろうか?」
嫌味で言った言葉に、予想外の言葉が返ってきた。
それに不快感を感じることもなく、面白いとばかりにジタンは笑った。
「いいぜ、お前になら。その時は俺もお前を殺してやるよ」
そう言うとレオンに鼻で笑われた。滅多に見る事のない笑顔だ。
こんな狂気じみたやりとりでしか満足できない自分に笑いつつ、ジタンはレオンの首に付けた傷に口付けた。