体温


くしゅん、とくしゃみが二回続く。二人分のくしゃみである。
春先の、それでもまだまだ冷える寒空の元。シタンとスコールは毛布を被って寒さに震えていた。服は外に干されており、裾から水が滴り落ちている為、とても着れるような状態ではなかった。
「うう、…寒い…」
「………」
毛布の中で尻尾の先まで震えるジタン。スコールも同じような状態であった。

イミテーションとの戦いでフラッドとブリザドを同時に受けてしまった二人。その後、服を乾かす間もなく続いた戦い。水辺での戦闘に、二人は濡れる一方で。
ようやく戦線を離脱しテントに戻ったが、その身体は完全に冷えきってしまっていた。仕方なく服を脱ぎ、かろうじて無事だった下着一枚の姿で二人は毛布に包まっていた。
心なしか頭が痛い気がする。

「大丈夫か〜?」
呑気な声をかけながらテントに入ってきたのは、唯一水難を逃れていたバッツだった。
そんなバッツにジタンとスコールは恨みがましい視線を向ける。水に濡れた原因の一端は、バッツの放ったフラッドではなかったか。
「あ、怒ってる?」
そんなに睨んじゃイヤン☆と可愛い子ぶるバッツに、ジタンは不機嫌も露に尻尾を振った。スコールは痛む頭に毛布をかぶり直し、無視を決め込んでいる。
「ごめんって…。ほら二人とも、ちょっといいか?」
そんな二人の不機嫌なオーラを物ともせず、テントに入り毛布の塊に近づいて行く。

そして二人の口に、棒状の何かを突っ込んだ。

「バッツ…ー」
「はいはい、黙って銜えてろよな」
口を開こうとしたジタンの顔を上下から掴み、口の物を落とさないように固定する。スコールは抵抗する気力もない様だった。
「あー、やっぱり熱があるじゃん…。今日は大人しく寝てろよ〜?」
棒状の何かは体温計だったらしい。熱があるとわかると、余計に身体がだるく感じるもので。
ジタンは尻尾を丸めて横になった。熱があるというのに毛布の中はひんやりとしていて、酷く寒かった。

熱冷ましの薬草を採りに行くとテントを出て行ったバッツ。
スコールはバッツが去って行く気配を感じつつ、朦朧とする頭で横たわった。

それからどれくらい経ったのか。ほんの数分のことであったが、スコールには長い時間に感じられた。

ばさり、と自分にかけられる毛布。見るとジタンが己の分の毛布をスコールに被せていた。
「…おい」
お前も熱があるんだろう、と言うよりも早く、下着姿のジタンは身震いをしながら二重にかけられた毛布の中に潜り込んできた。
「うわー…、あったけー…」
お互いに半裸でいるため直接触れる肌にスコールが狼狽える。しかしジタンは気にする様子もなくスコールの胸に擦り寄り、その腰に尻尾を巻き付けた。腰に巻き付けられた尻尾は温かいが、毛並みが触れてくすぐったかった。
震える小さな身体はとても熱いが、それでも寒さに震える様子はやはり熱が高いのだろう。それはスコールも同じことで、ジタンを温められるほどに体温は高くなっていた。
「雪山で遭難した時とかは、人肌が一番っていうだろ?」
そう言い、自分よりもひとまわり以上大きな身体に抱きつくジタンに、普段のスコールであれば恥ずかしさから困惑したであろう。
しかし熱のせいで頭が働かず、冷えた身体に小さな身体から伝わる体温が心地よく、気がつけばその身体を抱き返していた。腕の中にすっぽりとはまる、熱の塊。
思いのほか強い力にジタンは「おや?」と思ったが、すぐに嬉しそうにスコールに巻き付けた尻尾に力を入れた。
「スコール、変な気おこすなよ?」
さすがに今は体力もたないし、とからかう声に、スコールはそれはお互い様だろうと短く返し、そのまま意識を手放した。


「…ごちそうさまです?」
しばらくしてテントに戻ったバッツは、抱き合って眠る二人を見てそう呟いた。
手に握られた薬草。
一応は二人を心配して必死に探し、急いでテントへと戻ってきたのだが。

幸せそうに眠る二人を見て、これは使わない方がいいんじゃないかと、バッツは頭を掻いた。





Yさんがツイッターで『誰かパンイチで棒状のものをつっこまれている89を描いてくれる人いないかなぁ…』という診断結果を出していたので拝借しました。あ、でもこれ『描く』じゃなかった…。