ツイログ 1


・フリーワンライ(@freedom_1write)「冷蔵庫の中」(現パロ89)


ん、と鼻にかかったような声を上げながら、ベッドの上の塊がもぞもぞと動き始める。寝癖のついた頭を掻きながら起き上がったのはジタンだった。
「腹へった…」
ジタンの呟きに、隣で寝ていたスコールも続いて目を覚ます。
この日は休日。ジタンは前日からスコールの家に泊まっていた。泊まる予定ではなかったのだが、帰る事ができなくなった事情があった事を一糸纏わぬ二人の姿で察する事ができる。
眠気に任せ微睡んでいた二人だったが、ジタンの腹が健康的な音を発するようになり、覚醒を余儀なくさせた。ジタンはスコールのパジャマの上の部分を拾い上げるとそれを羽織り、キッチンへと向かった。
「今日買い出しに行くつもりだったから、何も無いと思うぞ」
残ったパジャマのズボンを穿いたスコールが遅れてキッチンへ顔を出した。スコールの言う通り、冷蔵庫の中には玉子、牛乳、レタスしか入っていない。
「あとはコーンスープと小麦粉かぁ…」
「何か買いに行くか、外で済ますか?」
「いや、こんだけあれば十分だろ」
その言葉に驚くスコールにジタンは小麦粉を抱えながら微笑む。
大きなパジャマから覗く白い首元が、朝日に眩しかった。



「驚いたな…」
ジタンがキッチンを占領すること数十分。テーブルの上には立派な朝食が並んでいた。
コーンポタージュ風味のパンケーキにスクランブルエッグ、レタスのサラダには手作りのドレッシングがかけられている。
「スコールはレシピ通りに作るタイプだろ。冷蔵庫の中の物だけで献立を考えるのが、真の料理上手だぜ?」
パンケーキを頬張りながらジタンがそう指摘する。確かにスコールはレシピから作るものを決め、材料を調達しに行くやり方をしていた。スコールは感心しながら、己もパンケーキを口に運んで行く。優しい甘さとコーンの風味が口いっぱいに広がった。
「俺、良いオヨメサンになれるだろー?早いところプロポーズしといたほうがいいぜ」
ジタンの言葉に、スコールはパンケーキを喉に詰まらせた。
そんなスコールをニヤニヤと見つめるジタンを、スコールは牛乳でパンケーキを流し込みながら睨み付ける。しかし赤くなった顔で睨まれてもジタンは何とも思わない。
スコールは空になったコップをテーブルに置くと、大きく息を吸って酸素を取り入れた。

そして「食べ終わったらきちんと服を着てくれ」と、ジタンに言った。







・『RTされたら89で恥ずかしそうにおねだりをしているところを全力で書きます』


テントの中が沈黙で静まり返っている。
普段は三人で使っているテントだが、中に居るのはスコールとジタンだけである。背を向け合って黙っている二人は、先程まで口論をしていた。ほんの些細なきっかけで起きた喧嘩で、バッツは「早く仲直りしろよ」とテントを出て行っていた。まだまだ子供の二人を気遣っての事だろう。
実際、二人の怒りはとうに治まっていた。
残っているのは気まずさだけ。どう相手に歩み寄れば良いのか測りかねているのだ。
「……」
ぱしっと、ジタンの尻尾が床に当たる音がした。何度か繰り返されたそれだが、スコールは振り向けずにいる。
「──!」
床を叩く音が止み、再びテントの中が静かになったのは一息ほどの間。先程まで床を叩いていたジタンの尻尾が、今度はスコールの背中を叩いてきたのだ。
たしたしと背中を叩かれ、今度こそスコールは後ろを振り返った。しかしジタンは背を向けたままで、スコールは直ぐに前へ向き直ってしまう。
「……」
ジタンが振り返ったのは、そのわずか数秒後。
視界に飛び込んできたスコールの背中に、とうとう焦れたジタンは重い腰を持ち上げた。
どさりと、胡座で座っているスコールの懐の中に小さな毛玉がすっぽりと収まる。反射的にそれを抱き込み支えたスコールが何事かと腕の中を見ると、不機嫌そうなジタンと視線がぶつかった。
「……」
「……」
そのまま見つめ合うこと数十秒。
ジタンは黙ったままだったが、その尻尾は忙しなく動き、スコールの腕に巻き付いたり胸を叩いたりしている。
それでもスコールが動かないと、ジタンは一瞬視線を泳がせた後、尻尾をスコールの顔の位置に移動させた。
もふりと、毛並みの良い尻尾がスコールの口に当たる。それはスコールの口を叩いたり、尻尾の先端を口に押し付けるようにしたり。
まるで尻尾でキスをしているようなそれにスコールが固まっているとジタンは眉を下げ、困ったような表情になった。
「…気付いてるなら、しろよ」
僅かに頬を紅潮させ拗ねたような顔をしているのは、自分からそう求めなければならない事が恥ずかしいからだろう。先程よりも力の籠った尻尾で顔を叩かれ、スコールは本当にしてもいいものかと戸惑ったが、これ以上ジタンの機嫌を損ねるのは避けたかった。
唾を飲み込みゆっくり身体を傾けたスコールに、ジタンは二人の間にある尻尾をどかす。
スコールは遠慮がちにその小さな唇に己のものを落とし、直ぐに離れる。しかしジタンは素早く首に腕に回し、それを阻止した。驚きに声を上げかけたスコールの口に今度は自分から唇を押しつけ、半開きの口に小さな舌を差し込む。
「…っ!」
ぺろりとスコールの舌を舐めたジタンは、思いのほかすぐにスコールを解放した。口を押さえて赤くなっているスコールに、ジタンがくすくすと笑った。

ジタンがスコールに強請ったのは、仲直りのキス。
自分からするのはなんだか癪で、スコールからするように催促したのだ。

つまりはこれで、仲直りは完了。
ジタンはいつもの笑顔を取り戻し、スコールに腕と尻尾を巻き付けた。








・89へのお題『眩しくて目を閉じた』


昼の眩しい日差しが地上を照らしている。季節は春から初夏へと移り変わっていた。
気温はさほどではないが、日向へ出るとじりじりと尻尾の毛が焦げる気がする。ジタンは昼の休憩時間を利用し木陰へと身を寄せ、グローブとブーツを脱いで寛いでいた。素肌に触れる芝の葉がひんやりとして心地良い。
これから日々暑くなっていくのだろう。ショップに日焼け止め売ってるかな、と大きな入道雲を眺めながら物思いに更けていると、こちらに近づいてくる影が見えた。暑さの為にいつものジャケットを脱ぎ、ラフな恰好になったスコールだった。

「そろそろ出発するぞ」
「えー、もう休憩終わりかよ」
そう不満を訴えても融通のきかないスコールは甘い顔などしない。これがバッツであったなら、便乗して休憩時間を延長してくれそうなものを。

ジタンは諦め、放り投げていたブーツを拾って履き始めた。のたのたとした動きで時間がかかっているが、スコールは律儀に待っている。

やがてグローブも身につけ終えると、ジタンはようやく重い腰を上げた。
「おまたせ…、…っ!」
日向で待っていたスコールへ歩み寄り、そう言って見上げたジタンの言葉の語尾が詰まった。ジタンとスコールには大きな身長差がある。その為スコールと目を合わせるには上を見上げなければならない。
真上には燦々と輝く太陽がある。ジタンはそれを思い切り視界に入れてしまったのだ。
眩しさに、ジタンは咄嗟に目をぎゅっと閉じた。

その時、唇に何かが触れた。

ジタンは驚いて目を開けた。スコールが屈んで自分を覗きこんでいたため影ができ、今度は陽の光に視界を奪われる事はなかった。
しかし、逆光のせいでスコールがどんな顔をしているのかまでは確認はできなかった。