手のひら


バッツ達が別行動をとっていたクラウド達と合流したのは先程の事。
スコールはクラウドに用事があるらしく、先頭で肩を並べて歩いている。その後ろにティナとオニオンナイト、最後尾にバッツとジタンという列が形成されていた。
目の前ではティナとオニオンナイトが手を繋いでいる。きっとオニオンナイトはティナをエスコートしているつもりなのだろうが、端から見るとそれは幼い弟の手を引く姉弟のように見えた。

しかしこれは、きっかけ作りに丁度良い。バッツは心の中で二人に感謝しつつ、「ん」と隣にいるジタンに手のひらを見せた。
「何だよ?」
差し出した手を見つめるだけのジタンに、バッツはめげずに手を握ったり開いたりしてひらひらと動かす。
「俺たちの関係は、なんだったっけー?」
「…………あ」
呆れた様に言われた言葉に、ジタンは顔を赤くして尻尾を揺らした。


二人が『友人』から「友人以上』になったのはつい最近の事。
その日は今後の関係の変化をあれこれ想像し、二人はらしくもなく緊張したり照れたりしてしまったものだ。
しかし三人パーティーというのも手伝い、特に何をするでもなく、『想い合う関係である』という事実以外に関係に変化はなかった。
元々スキンシップは過剰なほうであったし、いきなり身体を繋げるというのも急ぎ過ぎな気がして、気にしない様にしていたのだが、進展がなさすぎるというのも不安になるわけで。


清き交際の第一歩である「手をつないで歩く」をクリアすべく、バッツはジタンに手を差し出したのである。
意図を察したジタンは困った顔をしてその手を見ている。普段は手を繋ぐどころか抱きついたりなどを余裕でし合うというのに、意識してしまうと途端に恥ずかしくなってしまうらしい。
それでもジタンにはバッツの手を拒絶する理由はない。前を歩く四人に気付かれていないのを確認すると、おずおずと小振りな手をバッツの手に預けた。

きゅっと力を込めて握ると、ジタンの尻尾の気が少し逆立つ。
女性を見ればすぐにナンパしたり恋愛経験が豊富だという話しをしているくせに、この反応。
そのギャップの可愛さにバッツは顔が緩むのを止められない。悟られない様に懸命に顔面の筋肉運動をしていると、今度はジタンの方から力を込めて手を握ってきた。
「…手、でかいんだな」
そしてバッツから目を逸らしたままそんな事を言い始めた。
「そりゃ、ジタンに比べたら……いててて」
途端に容赦ない力で握られ、バッツが悲鳴をあげる。
「そういう意味じゃねえよ!腕、細く見えるから意外でさ」

言われてみればと、バッツは己の腕を見た。肩から露出しているそれは、他の戦士達に比べると細い方に分類されるかもしれない。
しかし戦闘の中でのバッツは、バスターソードとガンブレードを使って二刀流をするほどの怪力の持ち主だ。服に隠れていないので着痩せとはいえないが、見た目には反映されない何かがあるのだろう。
「手のひらも、固い…」
グローブもせずにあんな武器を振り回すのだ。皮膚も固くなるだろう。

ジタンは今まで知らなかった事の発見に、バッツの手の中でをもぞもぞと手のひら動かして確認をしている。
「直接触ればいいじゃん」
「え?」
素手のバッツに対し、外を移動しているためジタンはグローブを付けている。
そんなに気になるのならグローブを外して、直接肌で確認すればいいのだ。
「俺だってジタンの手のひら触りたいし…。ゆくゆくは手以外の部分もじっくり………あだだだだ!!」

そこまで言った所で、バッツはジタンの尻尾に腕を思い切り締め付けられた。圧迫感に出した悲鳴にはさすがに前の二人は気付いたらしく、何事かと後ろを振り返ってくる。その瞬間にジタンはバッツの手を振り払った。

「…どうしたの?」
怪訝そうに尋ねてくるオニオンナイトに、ジタンは「なんでもねーよ」と答える。涙目のバッツにどうせいつもの戯れだろうと、二人はすぐに前に向き直った。


バッツは腕を摩りながら隣で歩くジタンを見やる。きっと今日はもう、手を握らせてはくれないだろう。
しかしジタンは機嫌は損ねているものの、紅潮した顔や忙しなく動く尻尾は、不機嫌だけを表しているものではないのは明確で。

(ま、気長にいきますか)

少しの間だが手を繋いで歩き、ジタンはバッツの身体に興味を示していた。収穫は上々だ。

今度は自分がジタンの素手を触る番。
それから抱きしめて、キスをして。

最終段階に行くのは何時になる事やら。しかしその段階を一つ一つ踏んで行く事を考えるのは楽しくて仕方が無い。


少し気分が落ち着いて来たらしいジタンが、バッツの足を尻尾でつっついてきた。
その尻尾の主を見下ろすと、随分と可愛らしい顔で睨み上げてきている。

バッツはそんな可愛い恋人に笑いかけると、いつの間にか距離が空いてしまった仲間達に追いつくべく、足を早めていった。