休憩時間


背後の水音に意識をとられつつ、スコールは後ろを見ないようにしながら周囲の警戒をしていた。背後にあるのは小さな川で、そこでジタンが水浴びをしている。ぱしゃりと肌に水が当たる音がするたびにスコールの鼓動は跳ね上がっていった。
「いつも付き合わせてゴメンな」
「いや…、気にするな」
スコールに感謝の言葉をかけるジタンの髪は解かれ、長い後ろ髪は肩から胸元へと垂れている。

髪から伝う水が、膨らんだ胸を濡らした。



現在、ジタンが女である事を知っているのはスコールだけである。もしかするとバッツも気付いているのかもしれないが、知っていて何も言わないでいてくれているのかもしれない。
『男として扱ってくれたほうが、オレも気が楽だし』
女性はジタンだけではなくティナもいる。異性として最低限の配慮はしているが、彼女も秩序の戦士の一人として対等に扱われているのだ。ならば隠す必要はないのではとスコールは思ったのだが、ジタンは男だと勘違いされているのならそれでも構わないと言う。
『それに、オレが女だってバレたら、誰かがオレのこと好きになっちゃうかもしれないぜ?オレ、もてるから』
しかしこの一言でスコールはジタンの意志を尊重しようと心に決めた。
スコールはジタンが『女性だから』好きになったわけではない。しかし自分の恋人によこしまな想いを抱く者が現れる可能性はできるだけ排除したかった。



「あー、気持ち良かった」
下着姿のジタンが髪を拭きながらスコールの元へと戻ってきた、
布の少ない下着。肌が透けそうなほど薄いキャミソールは胸の形をくっきりと浮かび上がらせている。男勝りな性格はジタンの好きな部分ではあるが、こういう部分は恥じらって欲しいと多感な年齢のスコールは切実に思う。
「タオルを寄越せ」
「ん」
髪をがしがしと拭いている事に見かねたスコールがジタンからタオルを奪う。
そして地面に腰を降ろすと、ジタンは当たり前のようにその膝の上へと座った。
「あんな風に拭いたら髪が痛むだろ」
「えー。だって面倒だし」
それにスコールが拭いてくれるだろ?とジタンがスコールを見上げると、スコールの頬が紅潮した。
サラシやベストで上手く隠れてはいるが、ジタンの胸は小さいほうではない。この角度からはその胸の谷間がはっきりと見えてしまうのだ。

「…終わったぞ」
「サンキュー」
男として色々なものを耐えながらジタンの髪を拭き終えたスコールがほっと息をつく。しかしジタンはスコールの上から退こうとはしなかった。
それどころか、背中を向けて座っている体勢を変え、スコールに対し横向きに座り直した。横抱きになる形となり、スコールは反射的にジタンの背中に手を回してその身体を支える。
「おい」
「いいじゃん。久しぶりに二人きりなんだしさ」
早く服を着て欲しいスコールの気持ちを知ってか知らずか、ジタンはスコールの首に腕を回して密着を深めた。薄い布を隔てて、ジタンの柔らかな胸とスコールの胸が重なる。
「スコール、ドキドキしてる」
「…うるさいぞ」
くすくすと笑われ、スコールは顔を背けた。どこの世界に恋人にこんな事をされて反応しない男がいるというのか。
「怒るなよ。オレも同じだから」
ぎゅっとスコールに抱きつき、ジタンは己の胸を押し付けた。
スコールは深く息をはき、心を落ち着けると、ジタンの鼓動の早さが自分と同じくらい早い事に気が付いた。
「間違った事が起きてもオレは平気だし?だからもう少しこうさせてくれよ」
「…わかった」


秩序の戦士として戦いに明け暮れる二人が、恋人として過ごせる時間は少ない。
触れ合いに飢えているのはスコールも同じで、スコールもまたジタンを力強く抱きしめた。
大きな腕にすっぽり納まる小さな身体はとても柔らかくて、どこを触ってもいけない気分になる。あまり長い時間こうしていたら我慢が続く自信はない。

スコールから離れる気のないジタンに、「どうなっても知らないぞ」と、スコールは小さく呟いた。