夜のお時間


すっと細められた青緑色の瞳に、スコールは頬に熱が溜まっていくのを感じながら唾を飲み込んだ。
夕食を終え、各自がテントに戻り就寝の準備をしている時間帯。この日バッツはテントにおらず、ジタンとスコールのふたりだけとなっていた。
天候も穏やかで静かな夜だった。テントの布腰に聞こえる虫の鳴き声と、己の心臓の音がやけに耳につく。
「……スコール」
名を呼ばれ、スコールの肩がぴくりと動いた。こんな夜にする事といえば決まっている。ふたりきりで過ごせる時間は少ないのだ。その時間を無駄にしたくないというのがジタンの言い分である。
スコールが動けないのはいつものことで、ジタンは気にすることなくその服に手をかけた。
スコールのジャケットを脱がせ、邪魔なベルトも取り払う。
そしてジタンも自身のベストとベルトを脱ぎ捨てた。
「……っ」
ジタンがスコールの首の後ろに腕を回し、ちゅっと音を立てて唇を重ねた。触れるだけのキスでも呼吸を止めてしまい、ジタンが笑っているのが吐息で伝わってくる。
「ん……っ」
顎を引かれ、素直に口を開いたスコールの口内に小さな舌が差し込まれる。舌先をつつかれ思わず逃げるように舌を引っ込めてしまうが、ジタンは逃さないとばかりに口をぴったりと合わせてそれを追ってきた。
口内の敏感な部分をなぞられながら、ジタンの手はスコールの下肢へと触れる。

そのまま愛撫を施され、快楽に身を任せたままジタンと繋がる。それがいつもの流れだった。
性的な触れ合いに慣れないスコールにジタンは文句を言うどころか、自分の手でスコールの理性を崩すことを楽しんでいるように見える。お互いがそれに納得しているのならマグロと呼ばれようとも何の問題もないだろう。

しかしスコールはそれを良しと思ってはいなかった。

「ま、て……!」
いつもならこのままジタンに身を任せる所だが、この日は違った。強く身体を押されたジタンはスコールの突然の行動に驚いた様だった。その唇がお互いの唾液で濡れているのがわかり、スコールの顔が紅潮する。しかしここで踏み止まっていては何も変わらないと、スコールは己を奮い立たせた。
「い、いい。今日はしなくてもいい」
「え……?」
スコールの言葉にジタンの尻尾が下がる。力なく垂れた尻尾にスコールは焦った。
「違う、そうじゃなくて」
ジタンは拒絶されたと思ってしまったのだ。スコールは言いたい事をどう伝えればいいのか頭を悩ませる。自分の気持ちを上手く伝えられず、言葉に不器用な自分に舌打ちをした。
「ごめん、嫌だったか?」
「…………違う!」
スコールの行動を完全に勘違いしたジタンが身を引こうとする。スコールはそんなジタンの腕を慌てて掴んだ。
「スコール?」

困惑気味に眉を寄せるジタンを、スコールは膝の上に座り直させる。向かい合い、絞るような声でジタンに今の想いを口にした。
「き、今日は……、俺がする」
「へ? 別にいいけど……」
深刻そうな顔をして告げた内容に、ジタンは拍子抜けした様子だった。
しかし続いて伝えられた言葉に、ジタンの尻尾が盛大に逆立つことになる。


「だから、どこが気持ち良いのか教えてくれ」


「───っ!」
スコールの言葉の意味を察したジタンの顔が一気に赤くなった。その背にある尻尾の毛も逆立ち、そのあまりの内容にぱしんと地面を打ってしまう。
「な、なに言ってるんだよ!」
「お、俺だってあんたを気持ち良くしてやりたいんだ!」
「うるさい、もう喋るな!」
スコールとしてはジタンに痛みを伴わずに気持ち良くなって欲しい一心での質問であり、なぜジタンが狼狽え始めたのか理解ができずにいる。
ジタンに触れられるのはとても気持ちが良いのだが、熱に浮かされた思考の中でジタンがどこにどう触れていったのか記憶が定かではないのだ。それならば本人に聞いたほうが間違いはないだろう。
再度逃げ出しそうになったジタンの両腕を掴み、動きを封じる。自分は真面目に話をしているのだ。まっすぐにジタンを見つめると、彼は眉を下げて心底困ったような顔をした。
「教えてくれ」
「ひっ」
耳元に顔を近付けて囁くと、ジタンの身体がびくりと震えた。



このままジタンに触れ、その肌に溺れていけば事が済むことに、スコールは気付いていない。
ジタンにとてつもなく恥ずかしい事を言わせたことに気付くのは全てが終わった後、目を覚まして彼の怒りを買ってからだった。