オペオム89


「フレンド機能?」
モーグリに導かれ、各所の『ひずみ』を閉じてまわる中、神により新たな力が与えられたと一行は伝えられた。
「そうなのクポ。他の世界から助っ人を呼ぶことができるようになったクポ!」
そう言って渡されたのは、呼ぶことができる仲間のリスト。
「この中からひとり選べばいいんだな」
「オレ達の名前もあるぜ」
バッツが持つリストを覗き込みながらジタンが首をかしげる。
「おれたちが自分自身を呼んだらどうなるんだろうな?」
「さあ、それはやってみないとわからないな。あ、ほら見ろよ。このスコール」
ジタンが指をさしたリストの中のスコールは最高レベル、武器完凸、覚醒マックスと書かれている。ジタン達のレベルは30程度。武器も星4で、このスコールがいかに強いかがうかがえる。
「ちょっと見てみたいよな」
「よし、試してみようぜ」
バッツとジタンは悪戯を企む子供のように笑うと、スコールを誘いに行った。

スコールはあまり他の仲間たちと馴れ合うことはせず、時々シャドウなどと話はしているようだが、とても友人として話をしているようには見えない。
そんなスコールに積極的にかまいに行っているのがバッツとジタンだった。最初のうちは鬱陶しそうにしていたスコールだったが、諦めたのか打ち解けたのか、最近ではふたりと行動する事が増えている。
「スコール!」
「ちょっと戦ってこないか?」
そう言いながらふたりがスコールに抱きつく姿は、仲良し三人組である。


「レベル50?俺達にはまだ早いと思うが」
スコールはそう眉をひそめるが、ふたりは作戦があるからとスコールを引っ張っていく。
「三戦目でバッツと交代な」
「ちぇっ、おれも見たかったなぁ」
じゃんけんで負けたバッツが『フレンドのスコール』と交代する計画である。

一戦目、二戦目を勝ち抜き、三戦目。
レベルが高いクエストになると最後に出てくる敵が一番やっかいである。ブレイブにダメージを与えても敵側の攻撃が強く、ブレイクする所か敵側のブレイブが高まる一方で。
まずいと判断したバッツが『スコール』と交代した。
そして現れたもうひとりのスコールは、武器こそ違えど、見た目はこちらのスコールと全く同じ。
ジタンの両側に仏頂面がふたりいる図はなんだか可笑しくなってくるがジタンはその状況を楽しむ余裕はなかった。
敵のターゲットはジタンにある。ブレイブの高まり具合から見て、下手をすれば一撃でやられてしまいそうで。
冷や汗をかきながらジタンは防御態勢をとった。すると、目の前に大きな影が落ちる。見上げるとそこにはスコールが立っていた。ジタンと敵の間に立ち、まるでジタンを守るかのように。
「スコール?」
「相手が悪すぎる。無茶な事はするな」
そう言うとスコールは剣を構えた。

「あんたは、俺が守る」

「……!」
その言いように驚いたのはジタンだけではない。こちら側のスコールも同様だった。

そしてあれほど苦戦していた敵は、『スコール』があっさりと倒してしまった。

「怪我はないか」
「ああ、おかげさまで」
ジタンに大きな怪我がない事にスコールはほっとしたようだった。
それはいつもの仏頂面からは想像できないほど、穏やかな顔で。
ジタンが固まっていると、スコールはジタンの頭を撫で、去り際にその後ろ髪をさらりと触れていった。

「……」
「…………」
そして残されたふたりに微妙な空気が流れる。
あのスコールが、おそらくはあちら側にもいるジタンと随分と仲が良い事が伝わってきた。しかし友人に対する態度にしてはいささか過保護すぎやしないかとジタンは思う。
そしてスコールもまた、ただの友人に対しあんな行動には出ないはずだと、同じ自分であるがゆえにあちら側のジタンとの関係が察せられてしまい。

もしかしたら、今後自分たちも?

そんな事を思って固まっているふたりに、戻ってきたバッツが首をかしげた。









モーグリの導きにより新たな地に降り立ち、ジタンは辺りを見回した後、尻尾の先まで背伸びをした。
戦いを重ねるにつれ敵も強くなっていっているがそれは自分達も同じことで、この旅が始まった当初に比べ、随分とレベルも上がっている。まだ『ひずみ』から遠いであろうこの場所に出る敵に手を煩わせることもないだろう。
そうジタンは呑気に構えていたのだが、ジタンと共に戦地に赴くスコールは難しい顔をして紙を凝視している。それは以前渡された『フレンド』のリストだ。
「別にアシストはいらないんじゃないか?」
「俺達に必要はなくても、向こうが必要だろう」
「向こう?」
『フレンド』側に何が必要なのか。ジタンはスコールの持つ紙を覗き込んだ。そのリストには随分とレベルも装備も整っていない面子が並んでいる。
「『呼ばれた』時に報酬が出るからな」
「ああそっか、確かに向こうのヤツらはギルが必要そうだな」
アシストに向かうと、その回数に応じてギルをもらうことができる。ギルは装備品の強化に必要不可欠のもので、自分達もそれにずいぶんと助けられたものだった。

そして今回の出陣に選ばれたのは『ジタン』だった。



道中での戦闘中、いつものように『フレンド』の仲間を呼び出す。そうして現れたジタンに、スコールは目を疑った。
装備品が整っていない場合、他の仲間の相性装備を借りることは珍しくはない。今回アシストに選んだ『フレンド』のジタンもそうだった。
スコールが驚いたのは、そのジタンが装備していたのがスコールの相性装備であるバラムガーデン制服を着ていたことである。
体格の違いで丈が余り、ぶかぶかの制服を身に纏うジタンは、それでも器用に剣を振るっていた。
右側には己の制服を着た、まだレベルの低いジタン。武器だけは相性装備であるメイジマッシャーを持っている。
左側にはサバイバルベストとバタフライソードを完凸させ、レベルも覚醒も最高値のジタン。素早さの高い彼は敵をブレイブブレイクさせた直後にフリーエナジーを放つというえげつない攻撃を仕掛けている。
そんな2人を交互に見やるうちに戦闘が終了し、『フレンド』のジタンは照れくさそうに自分たちに礼を述べた。
「その制服は…」
スコールがずっと気になっていたことを尋ねると、ジタンはそのぶかぶかの服を手でさする。
「スコールの制服が一番防御力が高いから、借りてるんだ」
そうスコールに伝えるのが恥ずかしいのか、ジタンはわずかに頬を染める。そんな姿に胸に突き刺さるのもがないはずがない。自分の服を着るジタンをじっと見つめていると、スコールの後ろからもう一方のジタンが声をかけた。
「それならサバイバルベスト余ってるから持っていってくれよ。あとゾーリンシェイプも─── 」
「待て」
ジタンが言い終わる前に、スコールが制服を着たジタンを背に隠すようにしてジタンの言葉を遮った。
「なんだよ?」
「いや…、そういうものは自分の力で手に入れないと意味がないだろう」
「力っていうか、運だろ…。まあ、いいけどさ」
「?」
ふたりのやりとりについていけていない『フレンド』のジタンが、スコールの後ろから顔を覗かせて様子を伺っている。そんなジタンを横目に見たスコールが、手で己の胸を押さえた。
「……」
そんなスコールをジタンは呆れた顔で見つめた。己の制服を身に纏うジタンに胸の昂ぶりが抑えられないのはすぐに察せられて。
スコールが求めれば自分だって制服を着てもいいのだ。
ジタンはそう思ったものの、なんだか癪で、口にすることはなかった。