文化祭の裏で


着替えを取りに行くと言い残してバッツが保健室を出て行くと、ひとり残された室内は静けさが戻った。

ジタンは体調不良と理由をつけてこのまま帰ることになった。打ち上げに参加できないのは残念だが、先ほどの出来事が思いのほかショックだったのか騒ぐ気分にもなれない。それにバッツをつき合わせてしまうことを申し訳ないと思いつつ、送ってくれるという言葉に甘えることにした。
ジタンは片足を抱えて保険医の机を眺めていると、からりと扉が開く音がした。
バッツが戻ってくるにしても早すぎる。中に入ってきたのは他の生徒だった。
(うわ……)
その顔を見て、ジタンはつい息をもらしてしまう。
すらりと高い身長。細い身体についた筋肉は厚過ぎず、それでいて引き締まっているのはまるでモデルのようだ。
頭痛がするのか、こめかみに手を当てており、その手の下からは1本の傷跡が見える。しかしその傷は整った顔のスパイスとなり、美しさをより際立たせているように感じた。
ようするに非の打ち所の無い美形が目の前にいるのだ。
上級生だろうか。自分もあんな姿形をしていたら人生が変わっただろうなとため息が出る。先ほどのような変態の餌食にもならなかっただろう。
薬棚を開けて薬を探している青年を凝視していると、その視線に気が付いたのかこちらに顔を向けてきた。
「……っ!」
そしてジタンと視線がかち合ったと同時に、紅潮する頬。すぐに視線を背けられ、ジタンは自分のしている格好を思い出した。
ストッキングを脱いだ生足に、その足をベッドに上げているせいで捲れ上がっているスカート。
ジタンは慌てて足を下ろして頬をかくと、苦笑いをしながら青年に声をかけた。
「具合悪いんならベッド使うか? オレはもう帰るし」
「……いや、大丈夫だ」
搾り出された声もまた良い音をしている。鎮痛剤を持った青年はジタンと目を合わせようとしないままベッドに近づくと、開いていたカーテンを閉めた。
「今日は校内に部外者も多いから、格好には気をつけたほうがいい」
「……ああ」
その言葉にジタンはどきりとした。この格好のせいで変態に目をつけられたことを知っているのかと思ったのだ。
しかしそれはバッツ以外には見られていないはずだ。ジタンはカーテンの隙間から顔を出すが、青年はすでに退室した後で。
「……もしかして」
ジタンは先ほどの青年の反応を思い返した。彼は自分の足を見て顔を赤くしてはいなかったか。
自分が男だと分かっていれば、驚きはすれど顔を赤くして慌てることはあるまい。むしろ気持ち悪がるのが普通だ。

つまり、彼の言う「そんな格好」というのは、女の子が足を広げているなという意味合いの。

「今日は厄日だ…」
変態に襲われ、校内のイケメンに女の子に間違えられ。

やがてバッツが着替えを持って戻って来た頃、ジタンはベッドに突っ伏していた。