ツイログ3



・69♀(589♀アンソロの続きのペーパーの続きです)



(マント着なくて良くなったのは楽だけど……)
いつも薄着な所為か、あのマントと燕尾服は寒い地域以外で身につけるといささか暑苦しい。ジタンは今ではすっかり見慣れてしまった胸の膨らみを見下ろし、ため息をついた。


魔法によって性別が変わってしまったのは随分前の事だった。いつまで経っても身体は元に戻らず、この身体のまま他の秩序の戦士達と合流したのは数週間前の事。ジタンはマントで身体を隠していたが、ずっと隠し通せるものではなかった。
「魔力を感じる…。きっとこれの所為ね」
「なんとかできそうなのか?」
「少し時間はかかるけど、魔力を取り除けば大丈夫かも」
バッツやスコールとただならぬ関係になっていた為、身体を調べられる事に抵抗はあったが、幸いティナに気付かれる事はなかった。念のために痕を残すなと言い聞かせていたのが幸いだったのかもしれない。
一番危惧していた、二人から引き離される事は回避できたが、日中はティナと行動を共にする事になった。「ジタンをとられた…」と二人は肩を落としていたが、夜は一緒なのだから日中くらいは我慢してもらうしかない。

その我慢の足りない二人が、少し離れた場所で談笑しているティナとジタンを眺めていた。「あれはあれで良い……」と目の保養にされている事を女の子二人は知らない。
「ジタンの髪、さらさらで羨ましいな。私はくせっ毛だから」
「ティナの髪は砂糖菓子みたいで綺麗だぜ」
一緒に過ごすようになってから、こうした触れ合いが増えていた。触れてくるのは専らティナのほうで、髪や尻尾を弄ってくる。一時的とはいえ、自分以外に女性が増えた事が嬉しいのかもしれない。
(って言っても、中身は男のまんまだから心臓に悪いんだよな)
それを口にする野暮な事はしないが、男の時にはなかった距離感に鼓動が跳ね上がる。触れてくる指の柔らかさや髪から漂ってくる良い香りに、いま男としての機能が備わっていない事に感謝した。そしてバッツとスコールの辛抱の無さをなんとなく理解してしまった。
「それに私と違ってとてもふかふかしてる……」
「ふかふか?」
尻尾の事かと思ったが、ティナに尻尾は無い。ジタンが首をひねっていると、髪に触れていた細い指が首元に回ってきた。
「ふかふか……」
(ヒイィィーーー!)
首に触れた指が胸元まで滑り落ちてきたかと思うと、胸を掴みながらティナが抱きついてきた。背中に押し付けられたささやかな膨らみに、ジタンの尻尾の毛が一気に逆立っていく。
「ティ、ティナ……?」
「ふかふかですごく気持ちいい……」
その声は完全に悦に入っている。首筋に頬が触れるのを感じ、ジタンは肩をすくめた。
胸に触れる指が先端に触れ、ぞくりとした感覚が背筋を抜けていく。抱かれ慣れている身体にこれはまずいと脳内に警鐘が鳴った。
「ジタン、どきどきしてる……」
「そ、そりゃあ……」
胸に触れられている所為で鼓動の早さが筒抜けらしい。ジタンが頬を染めて俯いていると、耳に吐息がかかった。
「私も…どきどきしてきちゃった」
ティナはそう呟くと、それを確認させるように一層身体を密着させてくる。ジタンの鼓動はさらに跳ね上がり、己の心音が耳にうるさい程だった。



「やだジタンさんったら、公衆の面前で……」
一部始終を見ていたバッツが、わざとらしく口に手を当てた。
「止めなくていいのか…?」
「うーん」
百合の咲き乱れる世界から視線を逸らすと、二人の少女を見つめているのが自分達だけでない事に気付いた。
セシルはにこにこと笑いながらオニオンナイトの目隠しをし、「為になるッス」と呟いているティーダの横でクラウドが頷いている。ついでに木の陰に倒れているバンダナも見えた。
「ちょっとまずいかなぁ」
ずっと二人占めしていたジタンが、他の人間の目に留まるのはあまり面白くはない。
可愛い女の子の戯れは眺めていたかったが仕方ないと、バッツは頭を掻きながらジタンに助け舟を出しに向かって行った。





 ・学パロ79



赤い光が差し込む夕方の教室の中。クラウドはひとり、授業で渡された紙を眺めていた。
「悪い、待たせた」
教室の扉が開くと同時にそう声をかけられ顔を上げると、クラウドと同じクラスのジタンが駆け寄ってくる。そしてクラウドが持っていた紙をひょいと取り上げると、その内容を見て顔をしかめた。
「赤点ギリギリじゃん」
「ああ」
それは先日行われた小テストの解答用紙だった。空欄の目立つ解答用紙には、解答の代わりに赤いバツで埋められている。
「なんでちゃんと受けなかったんだよ」
「前に座っているあんたの尻尾を見てたからだな」
「……おい」
背の低いジタンの席は前方にある事が多い。その斜め後ろに位置するクラウドの席は、ジタンの後ろ姿を眺めるのにうってつけの場所だった。
「尻尾の動きが面白いと思っていたら時間になっていた」
テストの解答に悩む気持ちをそのまま現したように動く尻尾。それは今も落ち着きなく彼の背の後ろで揺れている。
「今日のは成績に響かないやつだからいいけど、期末テストでこんな点数取ったらセフィロスに『絶望(留年)を贈ろうか』とか言われるぞ」
セフィロスの名とやけに上手いモノマネに、今度はクラウドのほうが顔をしかめた。

諸々事情があり、クラウドは21という年齢になってから高校生活がスタートした。
一人だけ大人がいることに同級生が戸惑いを見せる中、最初に声をかけてきたのはジタンだった。
クラウドは口数は少ないが人当たりは良い。ジタンを通して友人が増え、今ではすっかりクラスに馴染んでいる。クラスメイトと同じ年齢の頃に過ごせなかったこの生活はかけがえのないもので、人生をやり直す事を決意して良かったと毎日思っている。なお、やり直したかった物の中に『勉強』は含まれていない。
「別に勉強ができないわけじゃないんだしさ。オレと一緒に進級したいだろ?」
「…それは、大事だな」
ジタンの言葉に、クラウドは口に指を当て考え込むと、すぐにそう頷いた。
「じゃあ今日からテスト勉強な」
ジタンの口元が上につり上がると同時に、夕日を遮るようにクラウドに影が差す。小さな手で両頬を覆われたと感じるのと同時に、柔らかいものが唇に触れた。
「どうだ?」
「…やる気が、出た」
少し塗れた唇に、笑うジタンの吐息がかかる。この1年程でジタンはすっかりクラウドの操作法を覚えた様だった。

「なあ、今日バイクだろ?乗せてってくれよ」
教室を出て人気の無い廊下を並んで歩いていると、クラウドの腕を掴みながらジタンがそう強請ってきた。
「俺の家に寄るなら乗せてもいい」
「……いいけどさ、今日勉強する気ないだろ」
ジタンはため息をつきながら、クラウドの鞄の中に手を入れて鍵を探し始める。クラウドもまたその鞄に手を差し入れると、中でジタンの手を握りしめた。
ジタンの手がぴくりと震え、頬に赤みが差すのを、クラウドは口元を綻ばせて眺める。
「勉強は明日からだ」
鞄の中に視線を落としたまま顔を上げられないジタンの尻尾が、僅かに揺れた。





 ・5×8×9



「なあスコール、キスしようぜ」
ジタンはそう言いながらスコールの背中を尻尾でつついた。振り返ったスコールは返事を返さないが、ジタンが手を伸ばすと素直にその身を屈ませた。
首の後ろに手を回し、少し背伸びをして唇を重ねる。触れるだけのそれはすぐに離れていった。既に肌を重ねる関係にある二人にとっては、軽いスキンシップの感覚である。
「あっ!」
声を上げたのは、それを目撃したバッツだった。バッツは不機嫌そうに眉を寄せると、足音を立てながらスコールとジタンに近づいていく。
「ずるいぞスコール、おれとはあんまりキスしてくれないのに!」
スコールはジャケットの襟を掴まれ言い詰められると、面倒なのに捕まったと言いたげにため息をついた。
「ジタンはしてくれるのに」

そう、肉体的な関係にあるのはスコールとジタンだけではなく、バッツを含めた三人である。

しかしスコールは、ジタンと同じように想っているはずのバッツからの触れ合いを避ける傾向にあった。先ほどのような軽いキスでさえ応じないのである。
「おれとは遊びだったのね……!」
バッツはスコールの服から手を離すと、泣くふりをしながら地面に座り込んだ。
「スコール、ちゃんと言わないと後が面倒くさそうだぜ……」
「……」
お手上げだと手のひらを上げてジタンが首を振ると、スコールはもう一度、深い息をついた。
「……あんたのキスは、洒落にならない事が多いんだ」
だからなんでもない時、夜に肌を合わせる時以外はしたくないのだと、最後は小声になりながらスコールがそう説明する。しかしバッツは思い当たる節がないのか、泣くふりを止めて首を傾げた。
「……っ、だから、いきなり舌を入れてくる時があるからしないと言っている!」
「……、ああ!」
スコールが顔を真っ赤にしながら言い放った言葉に、ようやく合点がいったバッツは手のひらをぽんと叩いて目を輝かせた。
「わかった、感じちゃうから嫌なんだな!」
「うっわ」
羞恥に言葉を濁していた事をあっさりと言いのけて、思わずジタンは声を漏らした。
「まあ、オレはいくらでも対策はできるんだけど、スコールはこういう時は無防備だからさ……」
「そっかあ。腰にきちゃうんじゃ困るよな」
お兄さんとのキスはそんなに気持ちいいのかと、すっかり機嫌の直ったバッツはうんうんと頷く。しかしそんなバッツに反比例して、スコールの機嫌は急降下している事に気が付かない。
「じゃあ舌入れないから、ちゅーしよ」
「断る!」
先程のジタンのようにバッツがスコールに手を伸ばすが、スコールは顔を真っ赤にして怒ると、その場を足早に去っていってしまった。
「うう、スコールが優しくない……」
「まあまあ、ほら、代わりにオレとキスする?」
スコールだけでなくバッツまで機嫌を損ねると、後で苦労するのはジタンである。ジタンの提案にバッツが嬉しそうに頷くと、ジタンはバッツの唇に顔を寄せた。
そして。

「───んっ!!」

隙を見て、バッツがジタンの唇を軽く食んだのである。
「ジタンそこが弱かったんだ。新しい発見!」
「だから、そういうところがダメだって言うんだよ!」
懲りないバッツに舌を入れられる心構えはしていたが、上唇を食まれるとは思わず、ジタンは尻尾の毛を逆立てた。
「まあまあ」
バッツは怒るジタンを抱えて小さな身体を膝の上に乗せると、子供にするように頭を撫でてご機嫌を撮り始めた。何度かなで回されると、逆立っていた尻尾の毛がいつものふわりとした質感に戻っていく。これはジタンの機嫌が直ったというよりは、怒るのを諦めたといったほうが正しいのだが。
悪戯の絶えないバッツだが、何をされても憎めないところがある。
きっとこうして同じように、夜にはスコールもバッツに絆されてしまうのだろうとジタンはぼんやりと思った。