はた迷惑な罠



「お願いジタン、私とえっちなことしてほしいの」
「…………はあ?」
細い指に両手を握り込まれながら投げられた言葉に、ジタンの声が裏返った。


思いつめた表情のティナに相談を持ち掛けられ、野営地の中で一番離れているテントへ移動したのが先程のこと。
他の皆には聞かれてはまずい内容なのかと気を引き締めた時、突然手を握られ、かけられた第一声が先程の言葉だった。確かに他人に聞かれたらまずい内容ではあったのだが。
「ティ、ティナ……?」
「こんな事、ジタンにしか頼めなくて……」
「それは光栄なことだけどさ……」
男ばかりの中で紅一点のティナの事は日ごろから気にかけてはいた。挨拶のようにデートに誘ってみたり、大きな段差があれば自然と手を差し出していたり。それが軟派な印象を与えていたのかもしれない。
「そういう事は、きちんと交際している相手とするべきだと思うぜ」
女性を軽んじることなど決してしないジタンだ。一時的な気の迷いであっても、恋人関係にない女の子に性をぶつけるなど言語道断である。
「うん……。でもね、そうも言っていられなくて……」
「……なにか事情があるのか?」
ジタンを見つめる瞳は真剣そのものだ。ティナは小さく頷くと、ジタンの両手を握る手に力を込める。
そしておもむろにその手を引くと、ティナ自身の下肢に触れさせた。
「ちょ、え……っ」
ティナの突拍子もない行動にジタンは慌てて手を引こうとした。しかしその手に柔らかなものが触れるのを感じると、驚いて動きを止めてしまう。
それは男である自分がよく知っているもの。そしてティナにあるはずのないものだった。

「────ええっ」

ジタンの声が、再度裏返った。



「ひずみの中にあった宝箱に罠が仕掛けられていたみたいなの。“ついて”しまったこと以外は体に影響はないのだけど……」
「まあ、困るよな。生えてたら……」
一度落ち着く為にテントの床に座り、ティナから詳しい事情を聞き出した。

簡潔に言うと、体は女性のまま、突如として男性器が付いてしまったのである。

触ると感触があるという事なので幻覚の類でもない。あまりのことにジタンは眩暈を覚えるが、一番困惑しているのはティナ本人だ。そんなティナがジタンを頼ってきたのだから、できる限り問題解決の協力はしたかった。
「解除するためには、誰かと情を交わさないといけないらしいの」
「それで治るってどうして分かるんだ?」
「宝箱にメモ紙が入っていたから……」
「何だその罠!!」
ティナが差し出してきた紙を受け取って見ると、乱暴な字で解除方法が書かれていた。命に関わるような害はないが、なんとも精神的にくる罠である。
「ん? そんな状態で情を交わすって事は……」
最初に「えっちなことをしてほしい」と言われた時は、ティナがジタンに抱いてくれと頼んでいると思ったのだ。女性にそんな事を言われてしまえば、男なら誰でもそう思ってしまうだろう。
しかし、ティナの体の変化の事を考えると状況は変わってくる。
「まさか……」
ジタンは引きつった笑みを浮かべ、恥ずかしそうに頬を染めたティナを見やる。
「私にジタンを抱かせてほしいの!」
予想通りの答えに、ジタンは尻尾の先まで固まってしまった。
「な、なんでオレ?」
「ジタンなら慣れていると思って……」
「慣れ……?」
「バッツやスコールと一緒に、そういう事をしている所を見たの」
「うわああ」
(あ、あいつらーーっ)
取り繕う余裕もなく、ジタンは思わず両手で顔を覆ってしまった。
いつもなら他の仲間に気付かれぬよう声に気を付けつつテントやコテージで済ませているのだが、魔が差して屋外で行為に及んだことは何度かある。その際も絶対に気付かれるなと二人に言い聞かせていたのだが、隙はどうしても生まれてしまうもので、しっかりとティナに目撃されていたらしい。
「その時にやり方は覚えたから、きっと上手にできると思うの」
「は、はぁ……」
どこからどこまで観察されてしまっていたのか。ジタンは再び握られた手に汗をかいた。
しかし。
「お願い、……私を助けて」
そうはっきりと救いを求められてしまえば、ジタンは首を縦に振るしかなかった。



背後から聞こえる衣擦れの音にジタンの頬が赤くなる。自分が抱かれるほうになったとはいえ、相手は女性なのだ。
ここが薄暗いテントで良かったと、早くなる鼓動に手を当てていると、全部脱いだほうがいいのかと尋ねられていよいよ心臓が飛び出しそうになった。
「タイツだけで大丈夫だから!」
「そう?」
慌ててそう答えると再びテント内の空気が揺れる。そしてすぐに肩を叩かれ後ろを振り返ると、ワンピース一枚だけの軽装になったティナがジタンを見つめていた。
「ジタンは大丈夫?」
「あ、ああ……」
脱がなくて良いのか確認をされたのだが、極力裸体を晒したくないジタンはズボンを少し下げただけだった。それにティナはふわりと微笑むと、ジタンの肩に手を乗せる。それに対しつい体を強張らせてしまったが、ティナは気分を害することもなくジタンに耳元に顔を寄せた。
「大丈夫、優しくするから」
「は、はい……」
そのまま耳の裏に口付けられ、女の子の良い香りが鼻をくすぐる。徐々に体が密着していくと、服越しにやわらかな膨らみが触れた。そしてティナの指先がジタンの下肢に伸びる。
「……あ」
思わずといった風に声を上げたのはティナのほうだった。ジタンの雄の部分がすでに硬さを帯びていたからである。
(うわぁーー……)
穴があったら入りたいというのはこのことで、ジタンは女性に少し触れられただけで男として反応してしまっていたのだ。
「やっぱり女の子にそんなところを触らせるのは……」
「大丈夫、自分の体を確認した時に見たから」
「そういう問題……?」
性的な反応を示す男性器を前にしてやけに冷静なティナは、感覚が少しずれているのかもしれない。
「でも、その時はこんなに硬くなかったのだけど……」
「あ……っ、待って、そんなに揉まれると……」
「わかった、こうして硬くしないと入れられないのね」
「〜〜〜〜!」
ジタンの股間を揉みながら理解を深め関心するティナに、ジタンだけが羞恥でどうにかなりそうになる。
「こうすればいいのかな?」
ようやくジタンの下肢から手を離したティナがそう呟く。見ればジタンにした事と同じ事をしようとしているのか、ワンピースの下に隠されている自身の性器を握り込んで首をかしげていた。
「……や、オレが触るよ」
「いいの?」
自覚はない様だが、ティナがしているのは自慰行為だ。さすがにそんな事をさせるわけにはいかず、ジタンは恐る恐るティナの下半身に手を伸ばした。
軽く握ったそれは確かによく知る雄の象徴だ。
「ん……っ、人に触ってもらうと全然感覚が違うのね」
「……そうだな」
バッツやスコールと関係を持ち始めた頃、二人に同時に体を触られた時に感じすぎて事後に起き上がれなくなることが多々あった。今では多少は慣れたとはいえ、自分で触るのと他人に触れられるのとではやはり格別に違う。
「ジタン、私も……」
「う、うん……」
ティナが求めている事を察したジタンが尻尾を揺らす。
向き合い、互いのものを触りあう行為がティナが相手だと思うと背徳感がすさまじい。
「……んっ」
ジタンの手の動きを真似ているのか、ティナの触れ方が段々と巧みになっていく。先端に指を食い込ませればティナも同じように返してくる。ジタンのほうが先に息が上がってくるのは心境の違いだろうか。ジタンは耳まで顔を赤くし、ティナの顔を見れず俯いてしまった。
「ジタン、気持ち良い?」
「ん……」
「私も……」
自分ばかりが感じてしまっている気分になってしまっていたが、手の中にあるティナのものも十分に硬さを持ち、彼女もまた同じように高まってきているのが分かる。形の良い唇から漏れる吐息に、ジタンの尻尾がせわしなく床を這った。
「……あ、ティナ。そろそろ大丈夫そうだから、その……」
何がとは言えずに口ごもるが、ティナは理解してくれた様でジタンの下肢から手を離した。
「私が見た時みたいに入れればいいのかな」
「そのままだと滑らなくてキツいから、何か……」
何か液状のものがあればとテント内を見回すが、ここは自分が使っているテントではなく、そう都合良く目の届く範囲にそんな物は無い。
「これ、使えるかな?」
「え?」
そう言ってティナが差し出してきたのは、黄色い液体の入った瓶だった。瓶を傾けると、とろりと中の液体が揺れる。おそらく蜂蜜だろう。あまりの準備の良さにジタンが絶句する。
(どこからどこまで見られていたんだ……?)
目撃したという行為の中には、どちらかがオイルか何かで慣らしていた段階も含まれているのだろう。ジタンは震える手で瓶の蓋を開けた。
「助かるよ……」
「私が塗ればいい?」
「いや、オレが自分でするからっ」
前だけでも羞恥でどうにかなりそうになっているというのに、後ろに指でも入れられたら気絶してしまいそうだ。ジタンは必死に首を横に振り、身を乗り出してきそうなティナを落ち着かせる。
蜂蜜を指ですくい、尻尾の下にある窄まりに押し当てる。
ゆっくりと指を入れていくと、緊張しているジタンの心境とは裏腹に内壁は待ち望んでいたかのように収縮してきた。前を見ればティナとのやりとりがあっても萎えることなく張りつめている。日ごろ抱かれ慣れてしまっている故の反応なのかもしれない。
ジタンは乱れる息を整えながらゆっくりと指を埋めていく。自分で中に触れるのは初めてのことで、指に伝わる熱や入口から食いつくような締め付けを感じるたびに、いつもこうして中で受け入れているのかと想像してしまう。そしてついバッツやスコールと過ごす夜の事を思い出し、奥にむずかゆさを覚えた。
「んあ……っ」
たまらず奥まで指を入れると強烈な快感にジタンの体がびくりと痙攣する。
(いつもの、ここだ……)
太くた逞しいものに突かれては、理性を削ぎ落されてしまう場所。その時のことを想像しながら奥を引っかくと、内壁が勝手に指に絡みついてくる。その状態で指を引けば中全体を擦られているような刺激が走り、ジタンは無意識に前の雄の部分にも手をかけてしまった。
「あ、あ……っ」
ぎゅっと握り込めば先端に先走りの蜜が滲みだす。そのまま出してしまいたい欲求が強くなり根本を握りしめると、近くから控えめな声が聞こえた。
「ジタン、あの……」
「……あっ」
慣らすための行為だったはずが、つい夢中になってしまっていた。一部始終を見守っていたティナは頬を赤らめながら、ワンピースから覗く素足の内股を擦り付けている。
「あの、私……」
その服の裾をぎゅっと恥ずかしそうに握りしめる姿は扇情的で愛らしい。しかしその服の下から主張してくるものに気付き、ジタンは我に返った。
「ごめん、辛いよな」
触れられたうえでジタンの自慰を見せられ、ティナも我慢の限界の様だった。汗ばむ手を胸元に当てて、ジタンの言葉にこくこくと頷く。
ジタンは己の中から指を引き抜き、ティナに背中を向けた。床に手を付き、ゆらりと尻尾を持ち上げる。
「う、後ろからのほうがやりやすいと思うからさ」
「うん、痛かったら言ってね」
ここまでくればもう説明は必要あるまい。自ら腰を突き出すのは恥ずかしいが、ここで躊躇ってしまってはティナに我慢を強いることになってしまう。
「ん……っ」
くちゅりと音を立てて、ティナのものが中へと差し込まれていく。
「熱い……」
そう言いながらティナがため息をもらした。
恐る恐る腰を進めている様で、挿入は随分とゆっくりだった。時折内壁が収縮してティナの動きが止まる。背中にかかる息の熱さから彼女も強すぎる快感に耐えているのが分かる。
ゆるい刺激に体の奥がむずかゆくなっていく。先ほど指で突いてしまった後だからなおさら先を求めてしまうのだ。ジタンは尻尾に力を入れて耐えた。
この体制で尻尾を揺らしてしまうと、どうしても相手の視界に入ってしまう。ティナはゆらりと動く尻尾が気になったのか、そっと柔らかな毛並みに触れてきた。
それが強烈な刺激になってジタンの背筋を走り抜ける。
「うあ……っ」
「きゃっ」
そしてつい下肢にも力が入り、中にいるティナを強く締めあげてしまった。
「ご、ごめ……」
「ううん。でも……」
ティナが息を飲むのと同時に、それまで入口のほうで止まってた雄の性器が、一気に奥まで侵入してきた。
「あ、あ──っ」
「ごめんね……っ」
ティナもジタンを傷付けぬよう気をつけていたのだが、先程の締め付けで箍が外れてしまった様だった。再度ごめんねとジタンに謝ると、背中に体を密着させ、腰を抱え込んできた。
「ん、ふ……っ」
腰を引かれるたびに、分泌した体液と蜂蜜の混じったものが繋がった場所から溢れ出てくる。それが太ももを伝うと、それにすら反応して足を震えさせた。
「だ、だめ、そんなに締められたら……」
「あ、待……っ」
最奥を突かれてジタンの背中が仰け反る、そのまま中を抉られるように動かれ、ジタンはたまらず己の下肢に再び手を伸ばした。これ以上我慢ができず、早く出してしまいたかったのだ。
「んあ、あっ」
頭が真っ白になり、途端に力の抜けた足の間から白濁がこぼれ落ちる。
そしてぼうっとした意識の中で、体の中に熱いものが注がれるのを感じた。


中の熱に意識をとられていると、ふっと、中を圧迫しているものが突然消え去った。残っているのは白い体液だけである。
「戻った……?」
それにはティナも驚いた様で、額に汗をぬぐいながらその場に座り込む。スカートを捲って中を確認する様子からジタンは目を逸らしたが、ティナの体が元に戻った事は確信していた。



それから二人の生活はすぐに元に戻り、ティナは何事もなかったかのようにジタンに微笑みかけてはジタンばかりが顔を赤くしていた。
あの時の記憶がまだ過去の事ととして処理するのはまだ早い頃、ティナと共に入ったひずみの中で宝箱を見つけた。
「これ、開かないみたい」
「そういう事ならオレの出番だな」
宝箱を振って確認していたティナから箱を受け取り、ジタンはポケットから針金を取り出した。鍵穴を覗きながらそっと中を引っかけると、それはかちゃりと音を立ててあっけないほど簡単に開いてしまう。
「ん……?」
中身を確認しようと顔を近づけた二人に、箱の中から白い煙がかかった。埃かと思いその煙を払うと、残されたのは空の箱だけである。
「なんだハズレか……って、ん……?」
ジタンは異常を感じて箱を足元に落とした。
異常があったのはその箱ではなく、自身の体である。
「…………」
急にきつくなったベストに手を当ててジタンが青ざめた。恐る恐るティナのほうへ視線を向けると、ティナは己の股間を凝視している。そしてジタンに顔を向けると、ぽっと顔を赤くした。
「まさか……」
「……大丈夫ジタン、優しくするから……」
はにかんだ愛らしい笑顔を可愛いと口説く余裕すら失われ、ジタンは膨らんで柔らかくなった己の胸元で手を握り締めて、この世界に呼び寄せた神を少しだけ恨んだ。