はた迷惑な罠3



「くっそ……」
足元に転がる宝箱に対し、ジタンが悪態をつきながら肩を落とす。そんなジタンとは対照的に、後ろに控えていたバッツは嬉しそうに目を輝かせていた。
「自分だけ避けただろ。嵌められた……」
「人聞きの悪い事言うなよ。開けないって選択肢もあったんだし」
「うう……。目の前に宝箱があったら開けないわけにもいかないだろ」
貴重なアイテムが入っているのかもしれないのだ。というのは建前で、盗賊としての本能で見過ごすのは後ろ髪が引かれる思いなだけなのだが。
中に入っていた紙を拾い上げると、中には予想通りの文面が記されている。

件の罠を受けたジタンの体は、再び女性へと変化していた。



この日二人はスコールとは別行動をしており、この場にいるのはジタンとバッツの二人だけだった。他の仲間達の目に触れる恐れがないのは不幸中の幸いだったが、バッツはジタンが再び女性の体になる事を心待ちにしていた人物である。今後の事を思い頭痛を覚えながら、ジタンはきつくなったベストの合わせを開いた。
バッツはそんなジタンを後ろから抱きしめ、柔らかな髪に頬ずりをする。膨らみを持ち上げるように胸の下に回された腕に下心を感じる。
「へへ、ジタン独り占め」
「……はあ。スコールと合流しなくていいのかよ」
「スコールには初めてを譲ってあげたしなぁ。それとも三人でしたいのか?」
「そ、そういう意味じゃないって」
後から知ったスコールが拗ねないかどうかの心配をジタンはしていただけで、そこに二人同時に抱いて欲しいという意図はない。しかし合流するというのはそういう事で、三人でする事に慣れてしまっているがゆえに無意識に出てしまった言葉にジタンは頬を染めた。
「……っ」
熱い頬に唇を落とされ、ジタンは身を固くした。緊張が伝わったのか、もう片方の頬に触れてくるバッツの手は優しげだ。
その手はジタンの頬をするりと撫で下ろし、その先の顎を軽く掴む。そして腕の中の小さな体をバッツに向ける様に傾けさせると、唇を重ね合わせた。
「ん……」
身長差から真上に顔を上げる形となってしまいジタンの足がふらつくが、逞しい腕に支えられて後ろに倒れる事はなかった。浅く舌を差し込まれ、唇の裏を撫でるように舐められる。唇と粘膜の境目を舌先でなぞられると、体の中心にじんと痺れが走った。
唇はすぐに離れ、バッツはジタンの体を己の胸に押し付けるようにして抱きしめた。
「唇もいつもより柔らなくなってるかも。可愛い」
「お、おい」
尻尾の付け根を撫でられ、ジタンが慌てる。今居る場所は洞窟を模したひずみの中で、近くにイミテーションの気配は感じないものの、行為に及ぶような場所ではないからだ。
「え、ここですると思ったのか? ジタンたら、えっち」
「お前な」
性的な接触をされ、想像しないほうが無理な話だろう。ジタンが尻尾を揺らしてバッツを睨み上げると、バッツはそんな視線をものともせずジタンの体を横抱きに抱え上げた。
「うわっ」
「そんなもったいない事するはずないだろ。こんな所、さっさと出ようぜ」
そうバッツが言うと、唇に再び触れるだけの口付けを落とされた。そしてジタンを抱えたまま、軽い音を立てて地面を蹴る。
そして空間の歪んだ『出口』を見つけると、足早にその中へと身を投じていった。



ひずみから出た先は、突入前に自分達が居た場所だった。この近辺は安全を確認済みで、この状態で戦闘に入る危険がないことにジタンがほっと息をつく。そこでようやくバッツがジタンの体を地面に下ろした。
「怪我したわけでもないのに、抱える必要ないだろ」
「ジタンが柔らかいのを堪能したくてさ」
そんな事を言いながらバッツは己の荷物を漁り始めた。そして土地の開けた場所に設営したのはコテージだ。
「あれ、いつの間にそんなもの持ってたんだ?」
「ふふん。この日のために大事にとっておいた」
「この日のためって……」
言わば行為に及ぶための愛の巣だ。バッツの執念深さにジタンは思わず後ずさってしまう。バッツはそんなジタンの腕を掴むと優しげに微笑みかけ、先程のように腕に抱え上げると、コテージの中へと入っていった。

バッツは中に設置されている柔らかなベッドの上にそっとジタンを下ろすと、甲斐甲斐しくブーツを脱がせた。そしてバッツがマントを外す音を聞きながらジタンがシーツの上に素足を滑らせていると、すぐに大きな影がジタンの身にかかる。その影を見上げると同時に再び唇を塞がれ、ジタンはベッドの上に押し付けられた。バッツがそんなジタンの頭の横に腕を付き、ぎしりとベッドが軋む。
「ん、ん……っ」
バッツの舌で口内を塞がれ、息苦しさにジタンの眉が寄る。快感を与えるよりもジタンの口の中を蹂躙する意図の方が強いそれがジタンの舌を押し付けながら奥まで差し込まれると、えずきそうになったジタンがその舌に軽く歯を立てた。それがバッツの舌を傷付けてしまう前に、唇が離れていく。
「は……っ」
舌が抜けていったと同時に、ジタンが大きく息を吸い込む。上下する胸の膨らみにバッツの手が触れると、胸から耳の付け根まで大きく撫で上げられた。
「ジタン可愛いな。縛りたくなる」
「は……?」
なぜ可愛いから縛るに発展するのか。ジタンが呆気に取られていると、ジタンを押し倒しているバッツが苦笑した。
「縛り付けておけば、浮気できないだろ」
浮気という言葉は以前にもバッツが口にした事がある。ティナを助ける為に体を繋げた事を知られた時だ。
その時にジタンが言った通り、スコールを含む三人の間に体の関係はあれど、恋愛感情はない。特にティナと行為に及んだのは緊急事態だったからだ。ジタンはバッツに反論しようと口を開きかけたが、自分を見つめる目を見て、言葉が出なくなってしまった。
一見穏やかな笑顔を浮かべているバッツだが、目が笑っていないのだ。
「うん?」
そんな表情をしている自覚がないのか、口を噤むジタンにバッツは首を傾げる。
「ス、スコールとするのはいいのかよ」
やがて絞り出せたのはそんな言葉だった。他者と体を繋げる事が不愉快であれば、何故スコールを含めた三人で関係を持つ事を良しとするのか。
「え? そりゃ、おれはスコールのこともジタンと同じくらい好きだからな」
「……バッツの都合じゃん、それ」
懐に収めたい二人が関係を持つことは気にならないらしい。あまりに勝手な言い分にジタンは呆れた視線を向けた。
「でもオレも、誰でもいいってわけじゃないからな……」
「うん」
二人だからこそ、男の身で抱かれる事を許しているのだ。ジタンの言葉にバッツは満足した様で、その瞳にいつもの穏やかな色が戻っていく。触れられていた耳元を撫でられると、頬に幾度目かの口付けが落とされた。

ズボンのベルトに手をかけられ器用に外されると、がちゃりと音を立ててベッドの下に落とされる。性急に下着ごと下ろされる事が多い中、バッツはズボンのみを下ろすと、ベッドに横たわるジタンの体を見つめた。
「いつもの格好だし、そんなに見ても面白くないぞ……」
上半身はベストの前を開き、肩にひっかけている状態で、中はいつもの白いシャツだ。下肢に至っては、当たり前だが男性用の下着を身に着けている。これが女性用であれば目を楽しませることもできただろうが。
「普段の男物を着てる状態のほうが、却ってそそるというか」
シャツが捲れ露になっている腹部にバッツの指が触れる。へその近くを撫でられ、ジタンの体がびくりと震えた。そのままシャツを上げられると、中から現れた二つの膨らみに唇を寄せられた。
「……っ」
ちゅ、と音を立てて皮膚の柔らかな部分に吸いつかれる。吸われる力の強さに、痕を残されているのだと分かった。前回、後方にいたバッツは胸へは手で触れる事しかできなかったため、その時に発散出来なかった欲求を満たそうとしているのかもしれない。膨らみを寄せるように手のひらで押し上げられると、別の場所に痕が残される。そうしてバッツが胸の上で顔を移動させていると、まだ触れられていない胸の突起に唇がかすった。
「ひゃっ」
触れられている間に固くなってきていたそこは敏感に反応してしまう。それに気付いたバッツは舌先でその突起を押し潰すようにしながら舐め上げた。
「あ、ん……っ」
「可愛い……」
「……っ、さっきから、そればっか」
体に変化が起きてから何度「可愛い」を言われたのか、ジタンは数えるのを止めている。胸元に視線を向けた先でバッツと目が合い、その奥にある雄の気配にジタンは薄ら寒いものを覚えた。それは決して嫌悪の感情から来るものでは無いが、体を支配されている事に少しの恐れを感じてしまうのは仕方がないのではとジタンは思う。
そんな思考も、もう片方の胸の先を摘まれ、すぐに散ってしまった。先端やその周りの肌の感触を楽しんでいたバッツが体を少し下げ、その道標のように下腹部に痕を残していく。へその下に舌が這い、反射的に腹にぐっと力が籠った。
「んう……っ」
足の間に差し込まれた指が下着越しに敏感な部分に触れ、割れ目に沿って中指を押し付けられた。ただそれだけだというのに、指先に触れる部分がひくりと反応してしまう。それはバッツにも気付かれていただろう、雄を受け入れる部分に指を食い込ませられ、じわりと体液が滲むのを感じた。
「ここも柔らかいんだな。すごく熱いし」
「あ、あんまりそういう事言うな」
熱いのはバッツの愛撫に体が反応してしまっているからだ。ジタンは羞恥に頬を染め、より体温が上がってしまう。
「あっ」
下着に手をかけられ、下肢が空気に晒されていく。丁寧に足から抜かれ、身を起こしているバッツの視線が刺さる。慌てて足を閉じようとするが、それを許さんとばかりに両膝に手をかけられ、左右に開かれてしまった。
「バ、バッツっ」
「だーめ、ちゃんと見せてくれよ」
慌てたジタンが肘を立てて身を起こしかけるが、膝を掴む手に力を入れられてしまい閉じることも叶わない。
「ま、待っ……」
身を屈めたバッツの吐息が下肢にかかり、ジタンが腿を震わせる。そして躊躇なく股間に顔を埋められてしまった。
「──っ」
滑る舌が敏感な突起を包み込み、ジタンはひゅっと息を飲んだ。指で触れられるだけでも堪らなく感じてしまう箇所であるというのに、柔らかく弾力のある舌で強く押され、ジタンは達そうになるのをベッドのシーツを掴んで堪えた。ぴちゃりとわざとらしく音を立てながら、その下部へと舌が這っていく。
「あ、あ……っ」
入口から滲む体液を舐め取られ、一度身を起こしかけていたジタンの肘が崩れると再び背中がシーツへと沈んだ。
「んぅ、う……」
繰り返し聞こえる濡れた音に足を閉じそうになるものの、しっかり押さえられてしまっている膝は動かない。舌が這うたびに背筋と下肢がひくりと震えてしまう。
「そろそろいいかな……」
そう呟くバッツが口を離したのはその一瞬だけで、再び触れてきたかと思うと同時に、舌先が中へと差し込まれた。
「んあ……っ」
舌が入ることができるのはほんの入口にすぎない。しかし既にひくつきが止まらない場所には十分過ぎるほどの刺激となる。舌が動くほどに体液が溢れ、水音が大きくなっていく。ジタンは堪らず下肢に顔を埋めるバッツの頭を手で押さえた。
「あ、あっ、もう……っ」
下肢の痺れが強くなり、中の舌を強く締め付けてしまう。絶頂に耐えようと尻尾がシーツの上を泳いだ瞬間、達するよりも前に舌が抜かれてしまった。
「……っ」
「まだだめだぞ」
こうして寸止めをするのはバッツの悪い癖だろうか。ジタンの体力を考えての事だと知ってはいるが、あまりの意地悪さに目尻が熱くなっていく。
「悪い、やりすぎた」
「……悪いと思ってるなら」
「分かった分かった、一回楽にしてやるから」
ジタンに睨まれバッツは苦笑すると、己の下履きに手をかけた。伸縮性のあるタイツの下から現れた雄は、ジタンの痴態に反応したのかすでに頭がもたげている。肌を重ねるうちに見慣れてしまったはずだが、今になってその質量を意識して見つめてしまった。
ひたりとそれが下肢に当てられ、ジタンのシーツを掴む手に力が籠る。その手にバッツの手が重なり、ジタンは覆い被さってくる男の姿を見上げた。
そう一瞬の隙が出来たと同時に、十分に濡れている事を分かっているバッツが一気に奥へと挿入した。
「──あぁっ」
「……はっ」
僅かな痛みを感じたためか達することはなかったが、急に体内に埋め込まれた熱をジタンの内壁が強く締め付ける。それにはバッツも荒い息を吐いた。
「すごい、な。やっぱりあの時、おれも前をもらっておけばよかった」
「あ、あっ、動くなっ」
ジタンの手に重なっていたバッツの手がその手首を掴んでジタンの頭の横に押しつける。もう片方の手も同じ様にされ、ジタンは手の自由を奪われてしまった。そのまま乱暴に突き上げられ、ジタンが悲鳴のような声を上げた。
「ひぅ……っ」
ぎりぎりまで引き抜かれ、再び奥へと突き込まれてくる。そのまま腰を左右に動かされると、先端が体の奥に当たる感触がした。
バッツは酷く興奮しているのか、体内に入っている質量が増していく。そんな無茶な抱き方をされていても痛みを感じたのは最初に挿入された時だけで、この体はより雄を受け入れようと分泌が増していく。バッツもそれを分かった上でこんな抱き方をしているのだろう。
「すごい、濡れてるな。可愛い……」
バッツは拘束していたジタンの手を離すと、小さな体を腕の中に抱き込んだ。それは却って体の自由を奪う行為ではあったが、乱暴さが消えた気がしてジタンはほっと息をつき、バッツの胸に顔を擦り寄せた。
「あ、あ……っ」
ぐっと奥を抉るように腰を動かされ、ジタンは自由になった腕でバッツにしがみ付いた。それにジタンの体を強く抱きしめることでバッツも応える。
ジタンの背を支える腕とは逆の手で細い腰を掴み、内壁を擦り上げる動きが早くなっていく。そんなバッツの雄をジタンは内壁全体できつく締め上げていった。
「あ、あ──っ」
「……っ」
バッツの腰を挟む足に力が入り、ジタンの体が大きく痙攣する。
バッツは収縮する内壁に歯を食いしばって耐えると、中の雄を一気に引き抜き、ジタンの腹の上に白濁の液を放った。
痙攣が治まり、ジタンがベッドの上に身を投げ出す。荒い息を吐き、息苦しさに胸に手を当てると、胸の膨らみが無くなっていない事に気がついた。
「……?」
体が元に戻るのに時間差はあっただろうか。前回、行為の後にすぐに気絶してしまったジタンは戻らない体に不安を覚える。バッツはそんなジタンを眺め、何やら考え込んでいた。
「やっぱり中に出さないと戻らないんだな。中を我慢すればずっとこのまま……」
「……なっ」
恐ろしい言葉が聞こえた気がして、ジタンは青ざめた。それにバッツは苦笑し、汗で濡れた金の髪を撫でた。
「それも捨てがたいけど、このまま皆と合流はできないからな。ちゃんと今夜中に戻してやるって」
宥めるようにジタンを撫でる手は優しげだが、それはこの後もまた性交をすると言われているようなものである。
ジタンは長くなりそうな夜を思い、目尻に涙を浮かべた。




その翌日。
「スコーーールっ、会いたかったっ」
別行動をしていたスコールの姿を確認するなり、ジタンは足早に駆け寄ってその胸に抱きついた。
「何だ……?」
スコールはそんなジタンの様子を訝しげに見るが、抵抗をすることはなく小柄な背中を撫でて応える。
「会うなりいちゃつくなよー」
「うるさいっ、バッツなんて知るかっ」
「喧嘩はよそでやってくれ……」
バッツの協力のもと、体は無事元に戻ったが、そこに至るための濃厚過ぎる夜にジタンはすっかり機嫌を損ねていた。スコールの後ろに身を隠し、尻尾の毛を逆立ててバッツを威嚇する。
そんな喧嘩も二人の間では長続きはしないのだが、その日の夜、着替える為に服を脱いだジタンの肌に無数の痕が残っているのを見たスコールが落ち込んでしまい、今度は彼の機嫌をとる事に奔走する羽目になった。

ジタンの気苦労は絶える事がない。