すこすこじた



ふわりと体が宙に浮く感覚に、軽い眩暈を覚えた。
歪んだ視界の焦点が合うまで約数秒。そこが今では見慣れた無機質な建物の中だと分かると、また『喚ばれた』のだとジタンは気付く。
体重を感じさせない動作で地面に着地すると、目の前には新たな女神の姿があった。ジタンは慣れた手つきその細い手を取り挨拶をすると、マーテリアはよくわからないといった表情を浮かべた。女性に対するジタンの態度に全く動じないのはコスモスと同じである。
「お、来たな」
それから少し遅れ、ジタンが具現化された物とは隣のクリスタルが輝き、黒いジャケット着た男が姿を現した。ゆっくりと開かれた青い瞳は、先程のジタンのように状況を理解するのに数秒要している様だった。
「ここは……」
「よお、スコール」
名を呼ばれたスコールがジタンのほうへ視線を向けると、よく知った顔に安堵したのか表情を緩ませる。それはスコールと共に過ごす時間が長い者のみが察することのできるほどの僅かな表情の変化だ。
「あんたがいるという事は、あの世界か」
「そういうこと」
ジタンは二人きりの時にいつもしているようにスコールに飛びつきそうになるが、マーテリアの存在を思い出して踏み出しそうになった足を止まらせる。
ジタンとスコールが喚ばれたという事は、戦いの為だろう。
世界を甦らせる為の戦いだ。スピリタス側にやや不安のある面子が居はするが、戦争や殺し合いが目的ではないこの世界の戦いは、異世界の強者達と心置きなく大暴れできるまたとない機会である。ジタンは尻尾を立てて拳を手のひらで握ると、マーテリアのほうへと向き直した。
「よっし、喚ばれたからには暴れてきてやるさ。それで、もう一人は誰なんだ?」
見たところ自分達以外に人はおらず、クリスタルを見ても誰かが喚ばれる気配はない。ジタンの問いかけにマーテリアは困った様子で己の頬に手を当てた。
「他の者達は既に喚んでしまった後なので、居ないんです」
ジタンが喚ばれる数刻前、既にこの地に降り立っていた仲間達は各地に散ってしまっている。それを聞いたジタンは頭を掻いて尻尾を揺らした。
「うーん、二人だと少しきついかもな。スコール、ちょっと分裂してみせろよ」
「無茶苦茶な事を言うな」
そんな事を言いながらスコールの腕を叩くジタンの尻尾を、スコールが掴み上げる。手の中でばたばたと動く尻尾にスコールが意識を取られていると、「成程」と感心した様に呟く女性の声が聞こえた。無論、声の主はマーテリアである。
「それならできるかもしれません」
「え?」
ジタンとて本気で言ったわけではない。しかしその言葉を間に受けたマーテリアは、意気揚々とスコールのクリスタルに向けて杖を掲げ出してしまった。
「ええ……っ」
まさか、とジタンが頭上を見上げると、スコールのクリスタルから再び黒い影が現れるのを見て絶句する。
いま此処に喚ばれる戦士達はいわば魂の記憶を具現化した存在だ。生身の人間では到底実現で出来ないような事すらできてしまうのかもしれない。

中から現れたのは、制服姿に身を包んだ『スコール』だった。



「服装を変えて喚んでもらえて助かったな」
一戦を終え、そう呟いたのはジタンだった。それに対し、二人のスコールはむっとした表情でジタンを見下ろす。全く同じ顔で同じ反応をするスコール達に、ジタンは肩をすくめた。
「睨むなよ。匂いも気配も同じだから、さすがのオレも区別つかないんだって」
戦いの最中、スコールが背後に位置取りしているのを確認したと思えば、突然目の前にも現れるのだ。服装に違いがなければ戦況の判断がし辛くなり、苦戦を強いられていたことだろう。次があるのなら、その場にいる者と同じ人間を喚ぶのは止めてもらおうとジタンは思った。
(それはそれとして、この状況も悪くないな)
ジタンは己を見下ろしてくるスコールの顔を交互に見やる。男の自分でも見惚れてしまうほど整った顔立ちは、想い合う仲になる以前から好きな部分であった。
(両手に花ってやつか?)
文字通り両手でスコールのふたつの手を握ると、少し気恥ずかし気な反応が返ってくる。二人で全く同じ反応をするものだからジタンは笑ってしまった。

その時は浮かれてしまい、全く気付けなかったのだ。
自分自身が二人存在するという、当事者の気持ちに。



「スコールのやつ、遅いな」
「……?」
「あ、制服着たほうのスコールな」
火を起こしていたスコールが顔を上げ不思議そうな表情をするのを見て、ジタンが慌てて言い直す。当たり前なのだが名を呼ぶと双方が反応してしまうので言い回しが難しい。
「敵がいるわけでもないんだから気にする事でもないだろう」
「そりゃ、危険はないだろうけどさ」

三人が見つけたひずみの中は、緑が生い茂る自然豊かな記憶の場所だった。荒野で夜を過ごすよりはマシだろうとこの場所で休息を取る事に決め、野営の準備をしている最中である。
水を探しに行った『スコール』がなかなか戻って来なかった。せせらぎの音が聞こえるので、川がすぐ側にあるのは分かっているのだ。水を汲んでくる事にさほど時間はかからないはずだ。
ジタンがそわそわと尻尾を揺らしていると、地面についていた手に温かなものが重なる感触がする。
スコールの手が重なってきたのだ。
「……っ」
ふいに感じた熱に、川の方向を見ていたジタンが隣にいるスコールへと顔を向き直す。二人がグローブを外して直に触れ合えるのは、休憩の時や今のような夜だけだ。
薄暗くなっていく夜の影の中、火に照らされる深い青がやけに綺麗に見え、ジタンはつい見惚れてしまう。
ジタンを見つめる瞳が近付き、肌が触れそうになる。ジタンはうっとりと瞳を伏せてその流れに身を任せそうになるが、すぐに我に返り、重ねられている方とは逆の手でスコールの動きを遮った。
「…………」
重なりかけた口を手のひらで塞がれ、スコールの眉間に皺が寄る。
「あ、あっちのスコールを探しにいかないとだし、時間がかかるのは困る」
「……わかった」
ジタンの訴えに、スコールは渋々重なりかけた身を引いた。口付けだけならすぐに終わるのだが、ジタンの言う時間のかかる事をするつもりだったのだろうか。
(もったいないことしたなぁ……)
奥手なスコールの方からアプローチをかけてくる事は多くはない。今のような特殊な状況でなければ喜んで受け入れただろう。
焚き火へと向き直したスコールの横顔に後ろ髪を引かれつつ、ジタンは立ち上がった。そして謝るように尻尾でスコールの背を撫で、もう一人のスコールが居るであろう川へと足を向けた。



二人の元へ戻らないスコールの姿は存外早く見つけることが出来た。
水を汲む所まではやっていたのか、水の入っている容器を地面に起き、その隣の川縁に座り、星が輝き出した夜空をぼんやりと眺めている。ジタンはそんな彼の隣に黙って座ると、小柄な体をスコールの腕に預けるように寄りかかった。
スコールは少し身じろぎをしたが、ジタンの頭が肩当てにぶつからないように配慮している様だった。此処に居る事を拒否はされていないと感じ、ジタンは口を開く。
「何を考えているんだよ」
「…………」
ジタンの問いに、空へ向いていたスコールの視線が目の前の川へと降りていく。さほど流れは早くなく、水の流れる音は穏やかだ。スコールが小さく答える声も、はっきりと聞こえる程には。
「少し、考えていた」
先程もう一人のスコールにされた様に、地面についた手にスコールの手のひらが重なる。その手を力強く握られると、ジタンは顔をあげてスコールを見上げた。
「役割が終わった後に、先に消えるのは俺なのか」
「え……」
「もう一人の『俺』が全く同じ存在なら、俺がいなくなっても問題はないんだろう。でも今の俺の気持ちや記憶はどうなる。それも無かったことになるのか?」
「……スコール」
「……悪いな、自分でも何を言っているのか……」
「いや、わかるよ」
ジタンは重ねられたスコールの手に尻尾を巻き付けると、自分が二人居るという状況に置かれたスコールへの配慮を欠けていた事を悔いた。
ジタンにとって二人はどちらも同じ大切な存在であったが、当事者のスコール達は互いを別の個体と感じているのだろう。実際、それについてこちらのスコールの方に葛藤が強く現れ、二人に差ができている。『人数合わせの為に後から具現化された』と理解しているからだ。
「スコール」
ジタンはスコールの手に添えた尻尾に力を入れると、重ねられていた手を外し、スコールの頬に触れた。そして困惑の表情を隠せないその顔を引き寄せると、スコールの唇に己のものを重ねる。
触れるだけの口付けはすぐに離れたが、ジタンはスコールの頬から手を離さずに、今度は額を重ねて目を閉じた。
「お前が此処にいて悩んでいた事は、オレが覚えてる。居なかった事になんてぜったいにさせねえ」
それにな、とジタンは続ける。
「スコールが消える時は、オレも一緒だ」
「それは……」
不穏な言葉に感じたのか、スコールの声に戸惑いの色が付く。それに対しジタンは軽く顔を横に振った。
「後追いとか心中なんて考えてないぜ? 役割が終わったらオレもクリスタルに戻るってだけだ。スコールと一緒にな」
その時はきっと、焚き火の前で自分達を待っているスコールも共に記憶の欠片へと戻るのだろう。

スコールが求める答えになっているのか自信はなかったが、目の前にいるスコールへの気持ちは伝えた。
そっと顔を離すと、ジタンを見つめる青い瞳と目が合った。その瞳は空を見つめていた時よりも落ち着いているように見える。
スコールはジタンを見つめる目を細め、手に添えられている尻尾ごと小さな体を抱きしめた。体を丸めジタンの肩に顔を当てるスコールの頭を、ジタンは子どもをあやすようにそっと撫でる。
やがて大きなため息がジタンの肩口から聞こえてくる。そしてスコールはジタンの体を離し立ち上がると、水の入った容器を持ち上げた。
「……戻るか」
「ああ」
今度はすっかりあちらのスコールを待たせてしまっている。ジタンは迷いが無くなった様に背筋を伸ばしているスコールの背中を、小走りに追いかけていった。



「悪かったな」
夕食を終え、テントに戻る途中で耳打ちしてきたのはいつものジャケットを着ているほうのスコールだ。
「何が?」
「もう一人の俺のことだ」
ジタンははっとし、前を歩いている制服姿のスコールの後ろ姿を見る。こちらの会話には気付いていない様で、そのまま先にテントの中へと入っていってしまった。ジタンは足を止め、小声でスコールに答えた。
「話、聞いていたのか?」
「いや……。ただ、あれも俺なんだろう。だったら考える事は分かる」
もし立場が逆だとしたら――――。
スコールとは状況は異なるものの、そういった思いにはジタンにも身に覚えがある。
「でもお前が謝ることないだろ」
「分かっていて邪魔をしたからな」
「え?」
ジタンがスコールの顔を見上げると、スコールは気まずそうに視線を逸らした。
「あんたがもう一人の俺を気にかける事が面白くなくて、引き止めようと……」
スコールがジタンに口付けようと行動を起こした時の事だ。あれが嫉妬からきたものだとは思いもよらず、ジタンは呆気にとられる。
「どっちのスコールも大切だぜ、オレは」
「ああ。俺があんたの立場なら、同じ事を思うだろう」
素直な言葉が返り、ジタンが居ない間にこちらのスコールも己の気持ちに折り合いをつけたのだと理解する。
ジタンは口元に笑みを浮かべるとスコールの手を取り、もう一人のスコールが待つテントの中へと入っていった。



テントの中に寝る為の毛布と敷くと、自然とジタンが二人の間に挟まる位置となる。
(まあ、わざわざ『自分』の隣で寝ようとは思わないよな)
仏頂面で窮屈そうに二人で毛布に包まる姿を想像し、ジタンは笑いそうになってしまった。
横になり、両隣からスコールの気配を感じるのは不思議な感覚だが、昼間にも感じたように悪い気分ではなかった。想い人の匂いに全身が包まれている様で、心地よさに猫のように喉を鳴らしたくなる。
ジタンはごろりと寝返りを打って隣のスコールを見ると、一度は閉じられた瞳が開き、青い目がジタンを見つめてきた。
(このスコールは、……どっちだっけ)
制服やジャケットを脱いでシャツ姿になった二人を見分ける事は困難だ。ジタンは数秒ほど考えて僅かに身を起こすと、スコールの額の傷に唇を寄せた。
「おい……」
ジタンの行動に、スコールが戸惑いを帯びた声を出す。
「外でオレを襲おうとしてたくせに、このくらいでなんだよ」
「あ、あれは……っ」
途端にスコールの頬が赤くなり、ジタンの顔にぶつからぬ様に避けながら咄嗟に身を起こした。目の前のスコールがどちらのスコールなのか、ジタンの予想は当たった様だ。
「襲う……?」
後ろからもう一人のスコールが低く声をかけてきた。彼もまた横になっていた体を起こすと、不機嫌そうな様子でジタンの背に身を寄せて来る。
「未遂だよ。むしろお前とはキスしたんだからそっちのほうが……」
「なんだって?」
ジタンの言葉に、今度は前方のスコールが不服の声を上げた。双方から感じる嫉妬の感情に気持ちを整理したんじゃないのかよとジタンは思いつつも、二人からそんな感情をぶつけられる事に悪い気はしなかった。
(可愛いな)
どちらかが第三者であれば浮気と咎められても仕方がないが、どちらもスコールなので後ろめたい事はない。スコール達もそれは頭では理解しているのだろう。しかし互いを別の固体として認識しているためジタンが他者と想いを交わしているように見えてしまい、嫉妬心が隠しきれない様だった。
そんな二人には悪いと思いながら、スコールへの愛しさにジタンの胸が熱くなる。そして堪りかねたジタンは目の前にいるスコールに抱きつき、後ろにいるスコールの腕に尻尾を巻きつけると、ぐっと己の体にぶつけるように強く引き寄せた。
「うわっ」
慌てた声はどちらのものだろうか。抱きつかれたスコールは慌ててその体を受け止め、腕を引っ張られたスコールもまたジタンを背中から抱きしめる形となる。身を包むスコールの体温に、ジタンはうっとりと目を細めた。
「ジタ、……」
口を開きかけたスコールの口を己の唇で塞ぐ。背後のスコールがそれに反応した様だが、何か言い出す前にそのスコールの頭を引き寄せ、彼とも口付けを交わした。
「……したいんだけど」
唇を離し、はあ、と息をつきながらジタンがそう言うと、二人のスコールの肩がびくりと震えた。
「それは……」
「嫌なわけないよな」
「そういう問題じゃない」
戸惑う二人が顔を見合わせる。そして片方がため息をつき、躊躇いがちにジタンに囁いた。
「その、三人でする事になるんだぞ」
「…………」
その言葉にジタンが二人を見つめると、スコール達は合わせたかのように同時に俯いて顔を赤くする。つまりは、二人分を受け入れる事になるジタンの体を心配しているのだ。
「あんまりオレを煽るなよ……」
スコールの可愛らしさにジタンは眩暈に似た感覚を覚える。
そして返事の変わりに、ジタンは自身が身につけている白いシャツに手をかけた。



小さな口内を埋め尽くす雄の大きさに、ジタンは息苦しさに眉を寄せた。
自らスコールの股間に顔を埋め中心のものを咥えると、口の中のそれは分かりやすく反応を示してくる。ジタンは己が先に欲情してしまった時にこうして口慰をする事が多い。頭上でスコールの息遣いが荒くなっていくのを感じていると、大きな手で髪を撫でられた。それはジタンの行為を受け入れている行動の現れだ。そんなスコールに対し愛撫を施しているはずの側のジタンの体の熱が昂るのを感じると、自分ばかりが興奮している事が少し悔しくなり、ジタンは手で支えていた根本を強めに掴んで先端を吸い上げた。
「う……っ」
その瞬間スコールの口から声が漏れ、反射的に頭に添えられていた手に力が入った。
早く今の自分のように情欲に塗れるといい――――そう思いながら吸った先端に舌を這わせていると、裸の背中にずしりと重みがかかった。
「んう……っ」
同時に後ろから胸の先端を摩られ、口内を塞がれているジタンがくぐもった声を上げる。もう一人のスコールが後ろからジタンを抱き込んできたのだ。スコールに擦られた胸の飾りがぷっくりと硬さを持つと、それを潰すように更に指の腹で押される。直接的な刺激に尻尾の付け根付近が疼いた。
「ん、ん……っ」
ジタンは己の口に意識を集中させようと、より深く咥え込もうとする。ジタンの口では根本まで取り込むことは出来ないのだが、そうして懸命に咥えようとする姿が却ってスコールを煽り、口の中の質量を増す事になっている事にジタンは気付いていない。
そんなジタンの様子を眺める『スコール』が既に興奮状態にある事が手に取るように分かってしまうもう一人のスコールは、あまり面白い気分ではない。スコールはジタンの首元に顔を埋めると、汗ばんだ耳元を舌先でなぞり上げた。
「……っ」
そのまま強く吸われ、柔らかな皮膚に赤い痕が残る。そしてスコールの舌が耳元から頸へとなぞる様に移動すると、舌が這うたびに背筋を走る快感に、耐えかねたジタンがスコールのものから口を離した。
「はっ、あ……っ」
ジタンの体は息を整える間もなく、口を離すのを見計らったように後ろへと引っ張られた。ふらついた背中をスコールの素肌の胸に受け止められ、ジタンは息を整えながら暴挙に出たスコールの顔を見上げる。
「はぁ……、お前なあ」
「放っておくあんたが悪い」
そう拗ねたように言って抱きしめてくるスコールの背を、ジタンは尻尾で撫でた。放っていたと言えるほどの時間は経っていない上に、ジタンの体も口も一つしかないのだ。三人で行為に及ぶ事に慣れているはずもないジタンがどう宥めるか考えあぐねていると、小さな体を抱き込むスコールの手が、ジタンの下肢へと伸びた。
「ひゃっ」
「……硬いな」
「そ、それは……」
まだ触れられていないのに関わらず、ジタンの雄は既に硬さを持っている。スコール可愛さにすっかり昂っていた結果だ。
「んあ、あ……っ」
根本から擦り上げられ、体が求めていた刺激に喉から高い声が上がる。スコールの手の中でそれは震え、先端が僅かに濡れた。その透明の液体を塗り込むように、もたげている頭に指先を食い込まされると、ジタンは堪らず体を抱き込んでいる腕にしがみ付いた。
「あ、あっ、……んぅ」
荒い息を吐いていた口がスコールの唇に塞がれる。すかさず入り込んできた舌がジタンの舌先を舐め、一瞬怯んだそれに絡みついてきた。
「ん……」
ぴちゃりと濡れた音が耳を犯す。ジタンもまた自らスコールの口付けに応えていると、時折隙間が出来る唇の間から唾液が溢れて顎を伝った。
(い、イキそう……)
口付けている間もスコールの手はジタンの下肢を擦り上げ、先走りの液体からも粘膜質な音が上がっている。
先に出してしまうと後が辛くなってしまうかもしれない。ジタンは一旦止めてもらうべきか悩み、閉じていた目を開ける。
そして何気なく己の下肢に視線を向けると、対面にいるスコールと目が合ってしまった。
「…………っ」
無論、口付けている方とは別のスコールである。ジタンは慌てて口を離すが、スコールの手はジタンの性器を握ったままである。
まるで愛撫を見せつけるような体勢でいたことに気付き、ジタンは顔を耳まで紅潮させた。
「み、見るな……んぁっ」
懇願の言葉と同時、根本を握られたジタンから嬌声が上がる。その姿に、一部始終を見ていたスコールがごくりと唾を呑んだ。
「え……?」
ぐっと膝を掴まれ、ジタンが顔を上げる。思い詰めた表情のスコールが視界に入ったかと思うと、大きな質量の熱が、尻尾の下の窄まりに押し当てられた。
そしてジタンの口慰で濡れているそれが、まだ解されていない中へと突き込まれた。
「ひゃ、あぁっ」
腰を押し付けられジタンの体がずり上がるが、ジタンを抱えるもう一人のスコールの腕で体を固定されてしまっている為、それが挿入を手伝う結果となる。
「く……っ」
中のきつさにスコールが苦しげな息をついた。締め付けの強い内壁をこじ開けるように挿入させていくと、その締め付けが一層強くなる。ジタンの雄を弄っていたスコールの手が、再び根本から先端まで擦り上げてきたからだ。
「や、あっ、スコール、やめ……」
「……それは、どっちの俺に言ってるんだ?」
「お、お前らな……」
この期に及んで大人気ない事を言い出すスコールを、ジタンが涙目で睨みつける。
「あ、あ――――っ」
ジタンが答えない所為か行為を止めなかった二人によって、ジタンは全身を硬直させて達してしまった。
「は……っ」
震える爪先で、足先にある毛布を掻く。達した後の脱力感で力の入らない体を、ジタンを抱えていたスコールが床へと寝かせた。
「ん、う……っ」
体内に入ったままのスコールはまだ達しておらず、凶器のような硬さのものにひくつく内壁が絡みついていく。そのスコールも我慢の限界なのか、ジタンが落ち着くのを待たずに再び腰を動かし始めた。
「……ジタン」
「ん……」
横たわるジタンの顔に雄が当てられ、ジタンはそれを抵抗なく口に含んだ。
上も下もスコールで目一杯に塞がれてしまい、奪われ放しの呼吸が苦しい。

しかしこれはジタンが望んだことで、悲鳴を上げる体に反比例して気持ちは満たされていく。
汗ばんで濃くなる恋人の体の匂いに、くらりと眩暈がした。




「それで、どうなったんだ?」
マーテリアの元、顔を合わせているのはスコールとジタンだ。しかし二人は以前の彼らではなく、マーテリアによって再び呼び出された新しい記憶である。無論、スコールはこの場に一人しかいない。
「どちらの記憶もある状態だな。まあ、此処に来ると色んな記憶が頭に入ってくるから、今更どうと言う事でもないな」
「余裕できたなぁ」
ジタンが約束した通り、ジタンは二人のスコールと同時にクリスタルへと還っていった。その時にどちらかの意識が消えてしまうのではないかと危惧していなかったわけではない。スコールの言葉を聞いて、内心安堵していた。
「それで、また一人足りないんだよな」
以前と同じく、他の仲間達は既に呼ばれていてこの場には居ない。そんな二人にマーテリアは何やら得意げに胸を張っている。
「任せてください」
そしてマーテリアが持つ杖に光が灯ると、ジタンは嫌な予感に襲われた。
「マーテリア、できればオレ達以外を……」
「なんですか?」
以前のような無用なトラブルは避けたい。しかしジタンが言い切るよりも前に、マーテリアの召喚は終わってしまった。

そして輝き出したのは、ジタンが現れたものと同じクリスタルで。
中から現れた尻尾を持つ人影に、ジタンとスコールが青ざめる。
「……うそだろ?」
そして呆然とそう呟いたのは、マントを羽織ったもう一人のジタンだった。