すこじたじた



「オレ達は同じ過ちを繰り返さないからな」
マーテリアの神殿で呆然と顔を見合わせていたジタン達はすぐ互いの状況を理解すると、そう言ってスコール見上げる。息を合わせるように同じ動きをした二つの尻尾に、現状に一番戸惑っていたのはスコールだった。
(なんだ、この状況は)
前回、クリスタルへと還る前に「両手に花だと思って少し浮かれちまったんだよな」とジタンが苦笑していたのを思い出す。それがこの状況なのかとスコールは動かない腕を交互に見下ろした
ジタンの言う同じ過ちというのは、前回スコール同士でジタンを取り合うような事をしたのを指しているのだろう。二人のジタンは律儀に、どちらがスコールの左右につくかの打ち合わせまでしていた。
そして左右の腕に抱き付いているジタン達は、互い牽制することなく上手くスコールを『分け合って』いる様だった。それぞれの緑の目と視線が合い、ふわりと微笑まれる。性格はともかくとして、男にしては可愛らしい顔立ちをしているジタンの笑顔は可愛らしく、それが二つあるというのは、確かに両側に花が咲いている様に見えた。
スコールは少し顔を赤くして視線を逸らそうとするが、どちらに逸らしてもそこにジタンがいる為、正面を向かざるをえない。そんなスコールの反応を見たジタンが「夜が楽しみだな」などと呟いた。
「な……っ」
そんな言葉を放ったジタンへと顔を向けると、先程の可愛らしい笑顔はどこへやら、にやりと口の端を吊り上げられている。
「意地悪言ってやるなよ、オレ」
反対側のジタンがそう笑い、スコールの足に尻尾を巻き付けた。
(なんだこれは……)
そして再度、今の状況にスコールは心の中でそうごちた。



前回が嘘のように平和に迎えた夜の時間。相変わらず定位置を守っているジタン達は、移動中と同じく、左右に分かれてスコールの隣に毛布を敷いていた。
ベストを脱いだシャツ姿と、マントを脱いで燕尾服を身に付けたままのジタンで、かろうじて区別がついている。
スコールは二人の間に腰を下ろすとジャケットを脱ぎ、ふうと息をついた。
「今日ずっと心ここに在らずって感じだな」
「いや……。随分と冷静だなと思っているだけだ」
「え、なんだよ、お前を取り合いしてもいいのか?」
ジタンに顔を覗き込まれ、スコールは言葉に詰まる。ジタン同士に争いをして欲しいわけではない。しかし自分が心をかき乱された時と比べ、互いを気遣いスコールに負担がかからぬ様に振る舞うジタン達に、自分との気持ちに差があるように感じてしまったのだ。
「ふうん」
上手く言葉を返せないスコールに、シャツ姿のジタンが尻尾で床を叩いた。
そして俯いていたスコールの両頬を掴むと顔を引き寄せ、唇を寄せる。触れるだけの口付けをされ、スコールが呆然としていると、反対側にいる燕尾服のジタンが非難の声を上げた。
「あっ、ずるいぞっ」
ジタンはスコールの肩に抱きつくと、奪い返すようにスコールの顔を引き寄せると、己もまたスコールに口付けた。そしてすぐに唇を離すと、眉を力無く垂らしてスコールを見上げる。
「オレだって、お前にこうしたいのを我慢してたのに……」
「……っ」
しおらしく落ち込むジタンに、スコールは胸の奥を鷲掴みにされるような痛みを感じた。そしてつい、その金の髪を撫でると、先にスコールに口付けてきた方のジタンが呆れた様にため息をついた。
「そういう作戦できたか……」
そうジタンの呟いた言葉を意味を、スコールは理解できないままそのジタンのほうへと顔を向ける。するとジタンはにこりと微笑むと、目を閉じて体に力を入れ始めた。
ふわりと逆立った金の髪が、次第に桃色へと変化していく。そしてそれは全身に広がり、ジタンは柔らかな体毛で全身を覆う姿となった。トランスだ。
見るからに触り心地の良さそうな毛並みに、スコールはごくりと唾を飲む。ジタンはそんなスコールの腕に抱きつくと、胸の毛でくすぐる様にしながら体を押し付けてきた。
「特別サービス」
「さ、触ってもいいのか?」
「お前のためにトランスしたんだから、好きなだけ触れてくれよ」
ぐっと腕を引き寄せられ、毛に覆われていないジタンの腹の素肌に手の甲が触れる。ふかふかな体毛との対比に、スコールの頬が恥ずかしげに染まった。
「オ、オレだって」
それを見ていた燕尾服のジタンもふわりと毛を逆立てていく。髪色は金の髪とは対照的な銀色へと変化し、破れた服からは素肌と、僅かに銀の体毛がはみ出しているのが見えるようになった。
「あ、これだと触りにくいな……」
桃色のジタンとは違い、銀色のジタンは破れているとはいえ服を身につけたままだ。そのままスコールに身を寄せても、スコールの好きな体毛を味わってもらうことができない。
「オレのことも、触ってくれよ」
ジタンはもう一方のジタンが拘束しているとは逆の手をとり、そっと己の腹部へと導く。そして破れた服の隙間に手を差し込こむよう促されると、差し入れた手は触り心地の良い毛に埋まった。それにジタンは恥かしそうに微笑むと、両側からのジタンの猛攻にスコールは興奮を覚えるとともに眩暈を感じた。
「スコール、こっちにも集中してくれよ」
「もっとオレに触って」
「お、おい……っ」
ぐっと双方に迫られ、後ずさろうとしたスコールは体勢を崩して毛布の上へと倒れ込んでしまった。
すかさずジタン達はスコールに覆い被さるように体を寄せてきた。どちらのものなのか、膝にジタンの下肢が触れ、まだ柔らかな雄の象徴を感じ取り、身を硬くしたスコールの中心にも熱が灯っていくのを感じる。
「なあ、スコール」
するりとスコールの顎を指先で撫で、ジタンの赤い瞳がうっとりと細められる。
「オレと、『オレ』」
ジタンは燕尾服の合わせを緩めると、首元の服を引いて、見せつけるように胸元を露わにした。
「「どっちがいい?」」
そして両側の耳にそう囁かれ、熱い息を吹き込まれた。
「〜〜っ」
二人のジタンの誘惑に、スコールの頭は沸騰しそうなほど混乱を極めている。
次第にジタンが触れてくる手つきに性的な意味合いが含まれるようになり、ゆっくりとシャツを捲り上げられ、素肌に指を這わせられるとスコールは堪らず手に触れるジタンの毛並みや肌を撫でるかのように動かした。
それにジタンが感じ入ったように艶のある息を吐く。

スコールは咄嗟に閉じていた瞳を開き、二人のジタンを見上げる。
そんなスコールに赤と緑の瞳が細められると、全く同じ作りの笑顔が浮かぶのが見えた。


その行為の一部始終がスコールを可愛がる為にジタン同士が協力してやっている事だということに、翻弄されっぱなしのスコールは気付くことはできない。
長い夜は、始まったばかりだ。