その身を包むもの


暫く続いた倹約生活から解放された秩序の戦士達
クラウドは頭そのものを武器にでもするのかと思うほどに髪を固め、レオンは無心でシルバーを磨いていた。

「あ〜、疲れた」
ジタンが片腕を上げ、伸びをする。
歪み内のイミテーションからアイテムとKPを根こそぎ奪って行く中、ジタンは始終トランス状態であった。一時的に身体能力を増幅させることができるのだが、その反動で疲労は倍になってしまう。
そんな疲れた顔をしたジタンの元へ、小さな毛玉が歩み寄ってきた。
「ジタンつかれた?はい!」
ころんとした飴玉を差し出してきたのは、小さいジタンだ。いつかスコールと共にモーグリからもらった飴を、養い親であるジタンにプレゼントをする。
「…、ちび?」
差し出されるまま飴を受け取ったが、それを渡してきた者が誰なのか、そもそも何の生き物なのか、瞬時に判断することができなかった。
「あめきらい?」
「いや、そうじゃなくて…」
首を傾げて見上げてくる姿は非常に可愛らしい。頭を揺らす度に一緒に揺れる“頭の上の耳”が、その仕草をより可愛らしいものにしていた。
「どうしたんだよ、その格好…」

小さなジタンは、ネコの着ぐるみにその身を包んでいた。


「スコールの服といっしょにティナが買ってくれたんだ!」
成長の早いスコールに比べ、ジタンは服を変える事が滅多に無い。新しい服に嬉しそうだった。
「モーグリが新しい服を仕入れてたんだな。…で、スコールはどうした?」
スコールの服と一緒に買った、というのであれば、スコールも新しい服に着替えているはずである。
「まだテントにいるよ」
「テントに?」
スコールは一人でも着替えられるはすだ、
ジタンは様子を見にテントへと向かった。
中を覗くと、確かにスコールはいた。以前の、小さくなった服のままで。
新しく与えられたであろう服を握り絞め、心底困惑している様子でいた。
スコールらしからぬベージュ色の服。その服からは、同じ色の尻尾が飛び出している。

…尻尾?

「もしかして、それ…」
「これしか売ってなかったって、いわれて…」
服から伸びた尻尾の先には、触り心地の良さそうなふさふさとした毛が生えている。
それはジタンが着ているのと同じタイプの、ライオンの着ぐるみであった。


ティナの趣味ではないかと思ったが、本当にそれしか売っていなかったらしい。(マ・○ーニの服は選択肢にない)
申し訳なさそうにしていたモーグリは、せめてもと一着分のKPで二着分を売ってくれた。それが今ジタンが着ているネコの着ぐるみである。


服が無かったら布地を買ってきてくれと頼めば良かったと後悔しても後の祭りで。
服で使いきってしまったため、布地を買う余裕は今はない。どうにかしてこの服を着てもらうしかなかった。
「ほ、ほら、スコールの好きなライオンさんじゃん!格好良いなー!」
「……………」
なんとか着てもらおうとジタンが褒めまくるが、そんな手に乗るほどスコールは単純な子供ではない。
「そういう服着れるのって子供のうちだけだしさ。羨ましいなー、俺はもう着れないし」
「…着たいのか…?」
「お前が真に受けるんじゃねえよ!」
テントに向かうジタン達に気付き、後からテントに入ってきていたレオンが真面目な顔をして言うものだから、ジタンは思わず突っ込みを入れてしまった。
「……………」
ますます着ないほうへと決心を固めていくスコール。
どうしたものかと思っていたら、自前の尻尾を振りながらスコールの元へと行くネコ…小さなジタンの姿があった。
「スコール、きないの?」
「……きない」
絞り出すように出された答えに、ジタンがえー?と不満気な声を上げる。
「かわいいティナちゃんが買ってくれたのに…」
「よく言ったちび!レディの好意を無下にするような奴はロクな大人にならないぞ」
女の子大好き!な部分は小さなジタンにもしっかりと受け継がれているらしい。
これにはレオンも呆れていた。



状況を理解したレオンも加わり、なんとかスコールを説得しようと試みるが、親思いのスコールにしては珍しく頑なに頷こうとはしなかった。
「そんなに嫌だったら、俺のマントで服作ってやろうか?」
ジタンが妥協案を出すが、それにもスコールは首を横に振るばかりだ。大好きなお母さんの服を切り刻むなんてとんでもないと思ったからだ。
「スコール、それいや?」
スコールの横で説得する様を観察していた小さなジタンが、俯くスコールの顔を下から見上げる。
「おれとおそろい、いや?それ着たら、しっぽもおそろいになるのに…」
自分の尻尾を揺らしながら、ジタンはライオンの着ぐるみを、それを持っているスコールの腕ごと抱きしめた。
すると、そこで初めてスコールの表情が変わった。拗ねたような落ち込んだような表情から、ジタンの我侭を聞く時のような困った顔をする。
「あたらしい服かってもらったのうれしかったけど、スコールとお揃いだったらもっといっぱいうれしいよ」
着ようよー、とスコールにじゃれつくネコの格好をしたジタンは、本当の仔猫のようだった。
ハラハラと見守る両親を一瞥し、スコールはたっぷりと沈黙をした後。
「……きる」
そう覚悟を決めて、頷いた。



ゆっくりとライオンの着ぐるみに着替えるスコール。サイズはぴったりだった。
ジタンはよほど嬉しいのか、ぬいぐるみのようになったスコールに飛びつきはしゃいでいる。
たまらないのは両親のほうであった。可愛い子供達が可愛い服を着て可愛くじゃれているのだ。親馬鹿な二人が何とも思わないはずがない。
「可愛い…。どっちも可愛すぎるだろ…」
「同感、だが。ちびが似合うという事はお前も似合うと言うようなものだぞ」
「スコールも似合うと思ってるなら、お前も同じだろ。…あー、可愛い」
すぐさま二人を抱きしめたい衝動にかられるが、それをぐっと堪える。今それをしてしまったら、小さなジタンはともかくスコールは二度とこの服を着なくなってしまうからだ。


見た目に反して防御力が高いその服。
やんちゃなちび達は暫くの間、怪我とは無縁だった。
次の服を買うKPが貯まるまでの僅かな間。可愛いネコとライオンがキャンプ地を駆け回る姿に、両親だけではなく他の仲間達も頬が緩みっぱなしだったという事は言うまでもない。




実は、診断メーカーの『(´-`).。oO(誰かネコの着ぐるみを着て女子力を高めている9を描いてくれる人いないかなぁ…)』からきています。女子力=飴。