うそ?


「スコール、きょうは嘘ついてもいい日なんだって」
「嘘?」
「えいぷりるふーる…だってさ」

いつものように一緒に遊んでいたスコールとジタン。そんな中、ジタンがスコールにそう話をもちかけた。
「でも嘘はいけないって、いつも言われてるじゃないか」
一緒に嘘をつこうと誘われているのがわかったのか、スコールがそう言って渋る。二人は普段から両親に『嘘はいけないこと』と教えられていた。
「『ひとをかなしませる嘘はだめ』って、言ってたよ。かなしい嘘じゃなければいいんだろ?」
「……あ、そっか」
スコールはジタンの言い回しに関心する。言われた事をそのまま覚えるスコールに対し、ジタンはその言葉の裏の裏まで考え覚え、言葉が巧みになっていた。だからなのか、口喧嘩でスコールがジタンに勝てなくなってしまったのは。
思考が逸れたスコールに構わず、ジタンは話を続ける。
嘘だとすぐにわかる嘘。
たとえ騙されても、その人がかなしくならない嘘。
いろいろと案が出たが、最終的にジタンが気に入ったのは…。




「レオン、ジタン〜!」
二人は早速、大好きな両親の元へと駆けていった。そして、あのねあのねと興奮気味にきりだす。
「おれとスコール、ケッコンしたんだ!」


それが二人が考えた“嘘”だった。


嘘でしょと笑ってくれれば良し、騙されても笑って許してくれる嘘。


「…え?」
レオンとジタンはきょとんと二人を見る。
そんな嘘ついて、って両親が笑ってくれると思って二人はワクワクと反応を待っていた。
しかし、返されたのは思いもしない言葉で。

「なんで改めてそんなこと言ってんだ?」
「とっくに結婚してただろう、お前達」

なにを今更、と両親が笑う。

二人が笑ってくれた。
…だけど何か違う。しかもわけのわからない事を言っている。

スコールとジタンは混乱のままその場を離れた。



次に向かったのはバッツの所。両親が忙しい時に一番に面倒を見てくれるお兄さんだ。
二人はバッツに、両親に言ったのと同じ嘘をついてみた。
「知ってるって。俺が仲人やってやったじゃん。いや〜、いい式だったよな〜ホロリ」
「「?????」」
バッツも両親と同じような反応をした。



その後も他の仲間達の元へと行くが、みんな「いまさら何いってるの?」と言うばかりで。
最初に遊んでいた場所に戻ってきたスコールとジタンは、完全に混乱していた。
「おれ、スコールとケッコンしてたの???」
「わかんない…。でもみんなそう言ってるし…」

“ここ”に喚ばれて来た人たちは、皆記憶が曖昧になる。
そんな事を教えられていた気がした二人は、自分達が結婚してることを自分達だけ忘れてるのではないか、と思い始めていた。

それなら仕方ない、と納得したのはジタンのほうで。
「もっと大きくなってからって思ってたけど、おれ、もうスコールをおよめさんにしてたんだ…」
「え、やだよ、なんで僕がお嫁さんなんだよ。お嫁さんになるなら小さいジタンのほうだろ!」
「ちいさくない!!!」
きゃんきゃんと言い争いを始める子供達。それを隠れて見ていたのは二人の両親だった。

「ちび達、自分達でついた嘘に自分達が騙されてるなぁ…。可愛い…」
くくっと声を殺して笑うジタン。
エイプリルフールを知った子供達が何かしらの嘘をつくだろうとは、大人達全員がわかっていたことだった。
だからあえて騙されるフリをした。
騙される、とは少し違ってはいたが。相談もしていないのに息の合った反応を返していたのは、共に修羅場をくぐり抜けてきた戦友達の絆なのかもしれない…。

「しっかし結婚かぁ。ほんとに将来結婚したりして」
「…つまらない冗談を言うな」
レオンの不機嫌そうな返事にジタンはおや?とする。
こういう冗談は嫌いだったかと疑問に思ったが、レオンは目頭を押さえると
「想像するだけで泣けてくる…」
と、娘を嫁に出す父親のように嘆き始めた。
そんなレオンをジタンは無言で蹴りとばし、惚気合っているようにしか見えない喧嘩を仲裁しに、子供達の元へと歩いていった。

エイプリルフールに嘘をついていいのは午前中だけ。午後はその嘘を笑いあう時間なのだから。