不器用な髪結い


微睡みの中、ジタンは自分の名を呼ぶ声を聞いた。
同時に身体を揺すられたり頬をぺたぺたと触られる感触もした気がしたが、睡魔に負け、確認をする気が起こる前に再度眠りに落ちてしまう。
眠りに落ちてもその手は諦めないらしい。揺すられては覚醒し、再び眠りに落ちる。それを何度か繰り返すとさすがにジタンも鬱陶しくなったのか、ううんと唸りながらごろんと大きく寝返りをうった。
その時になって、ようやく自分の両側に誰も居ない事に気がついた。本来なら共に寝ているスコールや養い親がいるはずだった。
それにジタンは急に寂しさを覚え、寝続ける気も失せゆっくりと起き上がった。まだ半分閉じたままの目を擦っていると、「やっと起きた」と呆れた顔をしたスコールがジタンを覗き込んできた。

テントの中にはジタンとスコールだけで他に誰もいない。両親は何処へ行ったのか訊ねると、仲間との打ち合わせで早朝からテントの外へ出ていると教えられた。
その間ジタンを任されたスコールだったが、いつまでも起きない事に業を煮やし先程の行為に至ったらしい。
その話を聞いているのかいないのか。ジタンは寝ぼけたまま生返事を返し、スコールにおはようのキスをした。それだけで説教モードのスコールを黙らせてしまう。ジタン自身は狙ってしているわけではないのだが。

やがて頭がはっきりとしてくると、ジタンはぼさぼさの髪が気になるようになった。
寝ている間に絡まった毛先をほどこうとするが、髪をひっぱるだけなので絡みはなかなか解けない。見かねたスコールが荷物からブラシを取り出しジタンの背後にまわると、その髪をゆっくりと梳き始めた。
撫でられる様な感触に、ジタンは気持ち良さそうに目を閉じてスコールに身を預ける。しばらくそれを続けていると、ジタンの髪は見違えるほどさらさらになった。それにスコールも満足気だ。

しかしそうなると、今度はその髪が自分の肩を滑るのが気になってしまうらしい。
鬱陶しそうに髪を払うジタンを見てスコールはブラシと一緒に入っていた髪ゴムを手にするが、そこで固まってしまった。

普段、ジタンの髪はレオンが結っている。自分の髪は大きいジタンが整えていた。

つまり、髪を結うなど今までしたことがないのだ。
スコールは悩んだが、ジタンの髪を結う時は心なしか楽しげなレオンを思い出し、自分も同じことをしたくなってきた。

長い後ろ髪を手に取り、ブラシで整えながらゴムをくぐらせる。
ただそれだけなのに、スコールにはどうしても上手くできなかった。毛が一房もれてしまったり、ゴムがするっと落ちてしまったり。

やっと留まった、と思ったが、なんだかいびつでボサボサで。

スコールはがくりとし、髪結いを諦めほどこうとしたが、その髪はスコールの手からするりと逃げていった。ジタンが振り返った為だ。
そしてジタンはスコールが持っていたブラシを奪い、「今度はおれがやる!」と、すでに整え終わっているスコールの髪に手を伸ばした。

適当にブラシを動かしているため毛の流れがおかしくなり、乱れていくスコールの髪。
どうしてそうなってしまうのかジタンには理解できないらしく「あれ?あれ?」と直そうと試みるが、髪は絡む一方で。


やがてボサボサ頭の兄弟がそこに完成した。

テントに戻った両親の笑いを獲得するのは、もう少し時間が経ってからになりそうだ。