流れる時が恨めしい
甘ったるい6のお題02(お題配布元;コ・コ・コ

日が落ちきる前に拾った枯れ枝を選別していると、テントから毛布を取ってきたジタンが楽しそうな足取りで戻ってきた。

彼は彼で服装にこだわりができたらしく、寒くなりつつあるこの時期でも袖のない服を着ている。露出に抵抗がなく尻尾をさらけ出している所は、養い親のジタンには似なかったらしい。

自分達でKPを稼げる様になってからは、この服を最後に両親から与えられる物はほとんどなくなった。
まだ単独での行動は許されていないが、戦闘に駆り出される事も少なくはない。

その証拠がジタンの腕に巻かれている包帯に表れている。

袖がないために余計に目立つ白い包帯。
本人は「失敗した」と笑い、両親も表面上は冷静に対処していた。慌てたり怒鳴ったりしているのは自分だけで。
両親も昔であれば自分と同じように血相を変えていたというのに、態度が変化したのは自分達を『戦士』と認め始めたからだろう。痛みも四人で分け合っていた幼少時代はもう終わりを告げている。

まだ割り切れていない自分は、まだ子供なのだろうか。



「今日は休めと言っただろ」
「まだ怪我のこと言ってんのかよ…。ただの擦り傷だって」
怪我をして帰ってきた時の事を思い出したのかジタンは眉を下げ、スコールの隣へと腰を下ろしてきた。
確かに寝込むような傷ではない。そう分かってはいるのだが。
むっすりとしているとジタンの尻尾が頬を撫でてきた。
「それに俺、楽しみにしてたんだぜ。スコールと二人で見張り番するのって初めてだし」

ジタンの言う通り、それぞれ両親や他の仲間達と番をする事はあっても、二人でするというのは初めてのことだった。
割り当てが決まった時のジタンの喜び様が思い出される。「遊びじゃねーんだぞ」と養い親のジタンに注意され、打ち合わせ中だったにも関わらず笑いが起きていた。



隣に座ったジタンと枝の選別を再開する。
毛布は別々。両親と同じように一つの毛布に入りたいと駄々を捏ねられたのは夕食前。そうしてやりたいのは山々だったが、寝る時とは違って難しいのだ。今の身長差では。
ジタンを軽々と抱きかかえられるレオンが羨ましくて、早く大きくなりたいと思っていた。
まさかジタンのほうがここまで背が伸びなかったのは想定外だったが。



湿っている枝は除け、乾いた枝を火の中へと入れていく。
無造作に入れるのではなく、三角錐を作る様に組んでいく。そうすれば少ない薪でも火は強く燃え、無駄が少ない。
これまで教えられてきた事を反芻しながら薪を入れていくと、ジタンが中に紛れていた竹を取り出した。
あ、と思った時は竹はもう火の中で。

その竹が火に炙られること数十秒。────竹は音をたてて爆発した。



「ぎゃー!!」



その音に驚いたジタンは己の毛布をはね除け、スコールの毛布の中へと飛び込んできた。
どれだけ驚いたのだろう。──こんな静かな場所では仕方がないとは思うが──毛布から漏れ出て震えている尻尾はピンク色に変化している。
何度か爆発を繰り返し静かになった頃、ピンク色の体毛に覆われたジタンが胸元から顔を覗かせてきた。
「竹は中が空洞になっているから、そのまま入れると中の空気が膨張して爆発する。そう教えられてなかったか?」
「…もらってた。今まではレオンが割っといてくれてたから、忘れてた…」
「────……」
ジタンの口から出た名に、スコールの表情に影が落ちる。
レオンは先を読んで、あらかじめ処理をしていた。薪の中に竹がある事に気付いていた時点でそうしておくべきだったのだ。

でも自分は、そんな事は考えもしていなくて。



憧れていた存在は、今では越えたい存在へと変化している。
それは戦いの面はもちろん、それ以外でも越えられた事は一つもない。


一番護りたい者への気持ちの面ですら劣りっぱなしなのかと思うと、気分は沈む一方だった。










初めてスコールと二人だけでの火の番に割り当てられた時は思わずはしゃいでしまい、養い親のジタンに注意されてしまった。
夜更かしみたいで楽しみじゃないかと聞いたら、スコールにも呆れられてしまった。幼い頃から規則正しい生活をしていた為、元々夜更かしに興味がないのだろう。

毛布を持ってきたジタンの腕の包帯を見たスコールの表情が硬いものになる。
先日の戦いでジタンは怪我をしていた。
回復魔法が必要ない程度の怪我にも関わらず、スコールは顔を真っ青にしてジタンを怒鳴りつけた。
スコールがこうして声をあげて怒る時は、大きな喧嘩をした時か、ジタンが無茶をした時。
不注意で怪我をした自覚があるため黙って尻尾を下げていると、レオンがスコールを連れて行ってしまった。



『未だ二人で戦闘に出せない原因の一端は、お前にある』



そんな言葉が聞こえてきたが、何故原因がスコールにあるのか。その時はまだ理解できなかった。



「今日は休めと言っただろ」
「まだ怪我のこと言ってんのかよ…。ただの擦り傷だって」
楽しみにしていたのは本当で、こんな怪我で寝てられるかとスコールの隣に腰を下ろす。
両親のように二人で一つの毛布を使うことに憧れていたのだが、身長差がそれを許さない。
まだ体格差がそこまで無かった頃に、一つの毛布に潜って内緒話をしていた頃が懐かしい。
一人だけどんどん成長していってしまった兄代わりを恨みがましく見上げるが、スコールはそんな視線には気付かなかった。

「スコールって、レオンに似てきたよな」
「そうか?」
「言葉遣いとか。いつの間にか『俺』って言うようになってるしさ」

そう言うとスコールは黙ってしまった。難しい顔をして燃える焚き火を眺め始める。
その反応にジタンは戸惑った。
レオンに教えを請い、同じ物を身につけ同じ武器を持つ彼は、レオンとの共通点を言われると照れくさそうに喜んでいた。
レオンみたいになりたいと口癖のように言っていたのだが、最近はそれを聞かなくなった気がする。

難しい年頃だなと、養い親のジタンが言っていたのを思い出す。

歳をとる毎に訪れる変化に、ジタンはまだついてけていない。



スコールと同じ様に難しい顔をしたジタンは、何気なく手に取った竹を火の中に放り込んだ。
そしてその後に起きた爆発に驚き、スコールの胸元に飛び込んでしまう。ぼうっとしすぎて、教えられていた事が頭から抜けてしまっていた。

尻尾を揺らしながら身じろぎをすると、背中に腕を回される。
見上げると、スコールは浮かない表情をしていた。
それが何故なのか分からず、ピンク色になった尻尾をその腕に絡めると、少しだけ表情が緩み背に回された腕に力がこもる。
(ああ、トランスしたから…)
このピンク色の体毛で覆われた姿が好きなのか、柔らかい体毛で擦り寄ると喜ぶ所は昔から変わっていない。
「あったかいか?」
「ああ」
「…そっか」
すぐにトランスを解くつもりだったが、スコールが喜んでいるのならいいかと、そのままの姿で腕の中に留まる。
そして、これなら一つの毛布に入る事ができると気がついた。
子供のように抱っこされている事が気にならなくもないが、こういった接触が成長と共に減っていってしまった寂しさから、これでもいいかと思ってしまう。


もうすぐトランスは解けてしまうがそれまでの間、ジタンはスコールの体温の心地よさに喉を鳴らすことにした。










「なんとなく、こうなる気もしてたけどな」
この日は一晩通しての番ではなく、途中で交代の入る日だった。
スコールとジタンの後は、レオンとジタンの番。
まだ交代まで時間はあったが、二人の様子が気になって仕方のなかった二人は、早めにテントを出ていた。

向かった先では、一つの毛布に包まって眠る、もう小さいとは言えない子供達。

火は消えていないので、まだ寝始めて間もないのだろう。しかし火の番がこれでは話にならない。

充分お咎めの対象になっているが、二人の気持ち良さそうな寝顔にそんな気は削がれてしまう。
リーダーに二人に甘いと注意を受けることがしばしばある。気を付けようとはしているのだが、二人が自分達にとっていつまでも可愛い息子であることは変わりようがないのだ。



「このままテントに運んでやりたいけど、ちびはともかくスコールはなぁ…」
「さすがに俺でも運べないな。昔は二人纏めて抱きかかえてたものだが…」
身振りを入れて昔を反芻するレオンに、ジタンが苦笑をもらす。

成長した二人は親の庇護を必要とする事はほとんどなくなっていた。それは嬉しくも寂しい事だった。
だからこうして手を焼く事態が発生すると、少し嬉しくなってしまう。それが甘いと言われる原因なのだが。



「仕方ない、起きてもらうしかないな」
「…そうだな。ほら、スコール、ちび、起きろー」
そう二人の頬をつつくレオンとジタンは楽し気だ。



二人が目を覚ますのは間もなく。
その瞳が開いた時、またいつもの日常が戻ってしまうのだろう。