軍人さんと役者さんで 診断メーカーの恩恵


1.『{夫婦語り}バイキングに食べにきた2人を妄想して語りましょう。』


『ランチビュッフェ』
そう書かれた看板をみつけたジタンは、レオンをそこへ誘った。

昨日からの任務でレオンが出張のため、スコールは本部である軍施設に留まって別の任務に就いている。
小さなジタンは舞台稽古。

そんな二人の養い親であるジタンだけが、この日は休暇をとっていた。
出張とはいってもレオンはそう離れた場所には行っていない。深夜にわたる任務があった為、その日は帰らず現地に留まったのだ。
昼には帰るというレオンを、ジタンは休暇を利用して迎えに行っていた。

時刻は正午。

昼は外で食べて帰ろう。そうジタンの提案に乗って入った先がこの『ランチビュッフェ』だった。

「…初めてだな、こういう場所は」
「そうだっけ?まあ、お前が行くのは想像できないけどな…」
白い皿を持ち、数々の料理に目を輝かせているのは女性ばかり。
レオンがジタン以外と外食をするのは、恐らくは同僚のクラウドあたりだろう。益々想像がつかない。

「ここにある料理を自分で皿に盛って食べるんだ。時間以内だったらいくらおかわりしても大丈夫ってシステム」
「ああ、そういう食事なら軍の食堂でもやっているな」

俺にはお前の弁当があるから無縁だが。

そう当たり前のように口にされたジタンは、料理が陳列されているテーブルへと向かうレオンに、一歩遅れて付いて行った。


「味は悪くはないと思う、が、冷めているな」
「まあ、作り置きだし」
思い思いの料理を皿に乗せ食事を摂っているなか、レオンがそう呟く。
「…やはりお前の料理が食べたい」
たった一日ジタンの手料理を食べられなかったというだけで肩を落とすレオンに、ジタンが笑う。
「夜はご馳走作ってやるから。ちびに手伝ってもらって、スコールはお前の肩を叩いて。…でもさ」
パスタをフォークに巻き付けながら、ジタンは頬を仄かに染めながら子供のような顔をした。
「久しぶりに…デートしてる気分にはなっただろ?」
その言葉にレオンがはっとする。
二人きりでの外食。この後は家に帰る途中にある店を冷やかす予定を組んでいた。

確かにそれは『デート』と言えるだろう。

子供達を引き取ってからというもの、二人きりの時間は皆無に等しかった。それに不満は一切無いが、冷めたパスタと少し乾いたケーキを嬉しそうに口に運ぶジタンを見ると、たまにはそういった時間も必要ではないかとレオンは思う。

「子供達も大きくなった事だし、たまには二人で外出するのもいいかもしれないな」
まるで熟年夫婦のような言い様。しかしジタンもそれに同意して頷いた。
「あえてちび達が休みの時…でもいいかも。たまには未来のカップルを二人きりにさせてやらないとな」
「そうだな。俺たちが居るとちび達を構いすぎて邪魔になるしな…」

『デート』だというのに、いつの間にか話題は子供達のことばかりで。
これじゃいつもと変わらないと二人は話題を変えて、この後冷やかしに行く店を何処にするかの話し合いを始める。

結局そこで買うものは、子供達へのお土産なのだが。







2.ちび89で甘甘な創作するならお題は『まるで新婚生活みたい』


「それじゃあ、留守番はよろしくな。戸締まりはきちんとしろよ」
「わかった!」
養い親のジタンの言葉に、小さなジタンが元気よく返事をする。
「夜には帰る。それまで、ちびの事をちゃんと護るんだぞ」
「ああ、勿論」

子供達の頼もしい返事にレオンとジタンは微笑むと、二人の頬にキスを落とした。

「いってきます」
そう言いながら開けられた扉の外はまだ暗い。
夜明け前に両親が向かった先はどこかの観光地らしい。久しぶりの夫婦水入らずの日。一日という限られた時間を存分に満喫する気満々な二人は、この日をよほど楽しみにしていたのだろう。

扉が閉まり、ジタンが鍵をかける。
時計を見ると、まだ四時半。早起きにしても早過ぎる時間だ。

「もう一回寝ようか」
「そうだな…」
俺たちも休みだしと、スコールとジタンは部屋に戻り、二度寝を決め込む事にした。





温かな布団の中で微睡みながら、スコールはカーテンから朝日が差し込んでいる事に瞼越しに気が付いた。
でも今日はお休み。
レオンからはトレーニングも休むように言われている。休む事も、身体を鍛える為に必要な事だと。

ならば慌てて起きる事もあるまい。スコールはそのままベッドに転がることにした。
部屋の外から聞こえる、何かを焼く音を心地良く感じながら。




「スコール、起きて」
「……ん」
あれからどのくらいの時間が経ったのか、小さな手で身体を揺すられる感覚にスコールの意識が覚醒した。
「朝ご飯できたから」
「うん……」
その言葉にスコールはようやく思い瞼を開けた。

(朝ご飯…?)
養い親のジタンは、朝食の用意はしていかなかったはずだ。
「俺がいらないって言ったんだ」
スコールの手を引いて、リビングへ向かう小さなジタン。リビングへのドアを開け「じゃーん」とダイニングキッチンを手で示す。
「俺が、全部作ったんだよ」

その一言で、スコールは完全に目が覚めた。



テーブルの上にはトースト、簡単なサラダ、黄身が潰れたベーコンエッグが並んでいる。
「ミルクでいい?」
「あ、ああ…」
よく見るとジタンはエプロン姿だった。
テーブルの上に並ぶ温かな朝食。リビングを照らす朝日。スリッパのぱたぱたとした音を立て、エプロンのリボンを揺らしながらキッチンへ消えていくお嫁さん(予定)。
スコールは無意識に自分の寝癖を直していた。



「ごめんな俺、目玉焼き作るの苦手で…」
黄身が潰れたベーコンエッグの事を言っているのだろう。見るとスコールのものよりもジタンの皿のほうが酷い有様になっている。まだ綺麗なほうをスコールに譲ったようだった。
「いや、固いほうが好きだし…。潰れてても、おいしい、…よ」
「……そっか」
嬉しそうに笑うジタンに惚けたスコールは、トーストに塗るバターを三日分は消費していた。


綺麗に空になった皿をシンクに置き、食後のコーヒーを用意する。
漸くコーヒーが飲めるようになった二人だ。まだミルクをたっぷり入れる必要があったが。

「こういうのってさ」
コーヒーと牛乳が混ざり合う様子を眺めながらジタンが呟く。
「しんこんさん…みたい、だよな」
「………っ」
スコールは口にしたコーヒーを噴き出しそうになった。
それはつい先程、キッチンを行き来するジタンを見てスコールも思った事だった。いつか想いを重ね合い、一生添い遂げる約束をして…次の日の朝からは可愛いお嫁さんの少し失敗した朝食を食べて。いつも考えていた事と今の状況が全く同じなのだ。
「レオンとジタンもこんな感じだったのかな」
「多分。でも目玉焼きは失敗しなかったかもしれない」
「うー、それは悔しい!大人になるまでにマスターして、完璧なのをスコールに食わせてやるからな!」
「う、うん…」
プロポーズのような台詞と、大人になっても一緒にいると当たり前のように言うジタンに、スコールの顔が赤くなる。
スコールはそれを誤摩化すかのようにカップに口をつけた。


のんびりとした休日の朝を過ごした小さなカップル候補は、その後共に食器を洗いながら外出の打ち合わせをしていた。
どこかでデートをしている両親に負けないくらい、楽しい一日にしようと笑い合いながら。