かわいくない

「レンって、かわいくないね。」
不機嫌そうな顔で、エリーがそんな事を言った。
言われた本人は面喰らって固まっている。
「なんだ、いきなり…。」
驚いているのはイサミも同じだった。
普段、「かわいいv」とレンをいじり倒しているというのに。
「普段はすごく可愛いよ? だけどね、この時間だけは可愛くないんだ」
この時間。
勉強の時間である。
イサミ、エリー、レンの3人そろっての勉強会。もとい、レンに勉強を教える会。
今までそういった教育を全く受けていなかったレンだが、元々才能があったのか、砂が水を吸うように知識を身に付けていった。
エリーは「教え甲斐がある」と喜び、イサミはレンの成長に(密かに)喜んでいた、はずなのだ。
「オレ、なんか悪いことしたか…?」
正気に戻ったレンがおずおずと聞いてくる。
「べっつに〜?」
先程までレンが解いていたプリントをひらひらさせながら、相変わらず不機嫌そうな、拗ねているような声で応える。
エリーの機嫌が悪くなった時の怖さを身をもって知っているイサミは、見かねて助け舟を出すことにした。
「一体なんなんだ、はっきり言え。」
「ん〜。」
エリーは溜息をつき、持っていたプリントをイサミに渡した。
「それ見てよ。」
言われた通りにプリントに目を通してみる。まだ書き慣れていない字だったが、答えは完璧だった。
「これの何が問題なんだ?」
「…イサミ、その数式覚えるのにどれくらいかかった?」
言われてもう一度見返してみる。
「俺が15の時にやった問題だな。たしか、4日くらいかかったか。」
「僕は1週間かかったよ。」
エリーがレンをじっと見る。


「レンは2日で解いたけど。」


「……………………。」
「……………………。」
「な、なんだよ…。」
2対の瞳に凝視され、レンは椅子に座ったまま後ずさるそぶりをみせる。
「かわいくないな。」
「かわいくないよね。」
「八つ当たりすんなよーっ!! オレが悪いのか!?」


その後しばらくの間、レンは2人にいびられ続けたらしい…。