メイド出現

東京某所に、大きいとは言えないけれど、それでも立派なお屋敷がありました。
そこには15歳になる若い主と、19歳のこれまた若い執事が2人で住んでいました。
主人のほうは根っからのお坊っちゃん体質で、飯・風呂・寝る以外のことを自分ではしたことがなく(執事がさせていないだけだが)、家のことは執事が全て行っていました。
炊事・洗濯・掃除・教育・スケジュールの管理、その他もろもろ。
いい加減自分ひとりでやる事に限界を感じてきた執事は、人を雇おうと決心しました。



「そういうわけで、許可をもらいたい」
1日の仕事を終え明らかに疲れ果てているイサミが、レンに進言した。
レンは夜着の姿でベットに座り、足をブラブラさせている。
「なんでオレの許可がいんの?」
「…この家の主人はお前だろうが、一応は」
「あーそっか。あんたのほうが偉そうだから、忘れてた」
あははーと笑うレンに、イサミは自分の額をおさえた。
二人は遠縁の間柄なので、主従関係はあまり築いていない。(故に、イサミの態度に客がビビる)
「ちょうど知り合いにここで働きたいと言っている奴がいる。早く許可を出せ。書類に判を押せ」
「…あんたって本っ当に偉そうだよなぁ…」

不敬な執事に押し切られる形で、レンは使用人を雇う許可を出した。





翌日。
朝からレンはそわそわしていた。
賑やかなのが好きな質なので、新しく家族が増えることが嬉しいのだ。
「なーなー、まだかな」
イサミの服を引っぱり目を輝かせるレンに、イサミは苦笑する。
「落ち着け。もうすぐ………来たな」
「えっ」
視線の先は玄関。
カチャリと音が鳴り、ゆっくりと扉が開いた。



「……………くぁっ………」
「うわーーーうわーーーっっ」



声に鳴らない呻きを発した執事と
頬を赤に染め、喜ぶ主人。

両極端な反応を楽しそうに見ている人物は、胸と腰に大きなリボンを付けた、赤毛の可愛らしいメイドだった。
「初めまして、僕はエリアス。よろしくね、レン」
手を取られ、レンの顔がいよいよ真っ赤になる。
「メイドって初めて見た…」
「そうなんだ?」
健全な青少年らしい反応をするレンの後ろで、イサミが頭を抱えている。
「待て、俺が雇ったのはメイドではなく―――」
「じゃあ、早速お仕事始めようか。部屋案内してくれる?」
「ああ、こっちこっち〜!」

きゃいきゃいとはしゃぎながら奥へと消えていく二人。



自分の仕事量と引換に胃痛を持病にかかえる事になるだろうと、イサミは安易に予測できた。