この手に絡め取られる可愛いひと
「可愛いなあ」
柔らかそうな髪にふわふわの毛並みの尻尾。一見した限りでは女性と見紛う容姿ではあるが、むき出しの腕はしなやかな筋肉に覆われ、男である事が分かる。
隣にいたその少年を見つめながらバッツが呟いたのは、そんな言葉だった。
己の名だけを認識している程度の不安定な思考の中、随分と下の位置に見える金色の髪は目に鮮やかだった。特徴的な尻尾を揺らし周囲を見渡しながら何やら考え込んでいた彼は、その声に気付き顔を上げる。バッツの姿を捕らえた瞳は綺麗な青緑色だ。そんなブルージルコンの瞳を僅かに細め、少年はにやりと笑う。
「みんな可愛いよな。此処がどこなのかよくわからないけど、可愛い女の子がいるだけでも居る甲斐があるぜ」
そう言いながら戻された視線の先には、同じ様に状況が飲み込めていない女性達の姿があった。身に纏う装束はそれぞれ文化が異なっている様に見える。
「え?」
しかしバッツが返したのは、疑問の一声だった。バッツの思う可愛いと、彼の感じているそれに食い違いが発生しているからだ。
再び顔を上げた少年は、バッツを見ながら首を傾げる。そんな愛らしい仕草にバッツが頬を緩ませると、不思議そうにしていた彼の表情が怪訝なものに変わった。
「もしかして、オレに言ってるのか?」
「そりゃ、もちろん」
他に誰がいるというのか。バッツは少年がした様に首を傾げ返すと、彼に生えている長い尻尾が大きく揺れ、深く溜息をつかれた。
「お前さ、オレに「可愛い〜」とか言われても嬉しいのかよ」
暗に男にそんな事を言われても嬉しくないと言いたいのだろう。バッツとて同性に可愛らしいと言われて喜ぶかと問われれば答えは否だが、目の前の少年に言われるのならば話は別である。
「嬉しいかも」
君に言われるのなら「嬉しい」。しかし主語を抜いた答えは少年を更に怪訝な顔にさせてしまった。―――意図が通じたとしても、嫌がられる可能性は高いのだが。
「……あっそ」
早く話を切り上げたくなったのか少年は呆れた様に言葉を返すと、すたすたと歩き出してしまった。
尻尾を揺らしながら向かった先は、彼が眺めていた女性達の元。
困惑している様子の、オッドアイが美しい女性に声をかけている。ナンパでもし始めたのかと思ったが、彼女の反応を見るにそうではないようだ。幾度か言葉を交わしているうちに彼女に笑顔が宿っていくさまが見えた。
ゆらゆらと揺れる尻尾と揃いの、金髪を纏めた髪の束に目をやる。
そして「やっぱり可愛いなぁ」と言葉が口から溢れたが、その声は誰に届くこともなく、足元の水面に溶け広がるように消えていった。
(これは使える、っと)
バッツは雑草を掻き分けながら器用に目的の草を摘み取ると、通気性の良い麻の袋に入れていく。
人里の無いこの世界では物資といえばモーグリから調達するか、“ひずみ”の中に現れる宝箱などから手に入れる他ない。安定した供給が得られない中、自然が豊かな事は幸いだった。食事に使えるのはもちろん、薬の材料になる植物も容易に見つける事ができる。さすがに雪原の地になるとそれも難しくなるので、移動先に植物があれば確認する癖がついてしまった。
「それ、食べられるのか?」
地面を見ていたバッツの視界に茶色のブーツが現れる。その足の後ろでふわりと揺れた尻尾を見れば、見上げなくとも声の主は分かった。もっとも、声だけでも判断はできるのだが。
「いや、これは薬草だから、調合して薬にできるかと思ってさ」
「へえ。簡単な薬草くらいならオレも分かるけど、バッツは薬師レベルだよな」
「薬屋でもしてたのかな、おれ」
故郷の記憶は霞がかって思い出す事はできないが、体が覚えているのか、戦闘や特技については問題なくこなせている。バッツのそれは他の戦士達と比較するとやや癖があった。多様な技を使うオニオンナイトもそれに近いかもしれない。
「そろそろ戻ろうぜ」
「ああ」
バッツがジタンの言葉に同意すると、ジタンは一歩前先を歩いてテントを建てている野営地へと向かう。ふわふわと視界に入る尻尾の毛先が僅かに手に触れ、その尻尾を掴みたい衝動に襲われた。
ジタンの尻尾に関してはスコールも興味がある様だが、スコールは小動物を撫でたいという庇護欲からくるものだろう。しかしバッツは尻尾の毛並みを楽しむ事よりも、毛を撫でた時のジタンの反応に興味があった。
怒るのか、くすぐったがるのか、それとも―――。尻尾を眺めながらそんな事を考えながら歩いていると、スコールの待つテントに着いていた。
焚き火を囲みながら昼間に摘んできた薬草の確認をする。飲み薬になるものは粉末にするために乾燥させ、傷薬になるものは使いやすいように軟膏に調合するつもりだ。そう、草を選り分けていると、バッツの指の動きが止まった。
(これは……)
つまみ上げたのは、一見なんの変哲もない草。傷薬や熱冷ましにもならないため、普段は見逃されがちな薬草である。
しかし薬に精通しているバッツにとっては興味深い発見だった。
三人で行動を共にするようになってから大分経つ。初顔合わせの時に警戒させてしまったかと危惧していたジタンとは無事に意気投合し、二人の気楽な行動に眉を寄せつつも付き合いの良いスコールとの旅は、命の危険が常に隣り合わせの世界の中で、不謹慎ながらも楽しいものだった。
夜の闇から旅人達を護るように張られたテントの中、消えたランプの煙のにおいが微かに香る。バッツは手に持った容器の形を指で辿りながら寝返りを打った。目の前には金の髪が見える。いつもは軽く括られている髪はほどかれ、簡素な枕を伝って床に落ちていた。それが見えるという事は、ジタンはバッツに背を向けて寝ている事になる。
ジタンを挟んだ向こう側にはスコールがいる。自分ではなくスコールに顔を向けて寝ているのだと思うと、少しだけ面白くない気分になった。
毛布から手を出してジタンの後ろ髪に手を伸ばし、指で軽く持ち上げると白い頸が露になった。バッツは金の髪を指に絡めながら、ジタンの首筋をもっと明るい場所で堪能したいななどと思いつつ、手に持っていた容器の蓋を外した。
蓋の下から現れたのは、塗り薬。日中に採集した薬草を使って調合したばかりのものだ。バッツは容器の表面を撫でる程度に薬を指に取ると、そっとジタンの頸に擦り付けた。
「……ん」
それから少し経つとジタンの尻尾が動いたのか、毛布の山がもぞりと揺れた。そうして何度か身じろぎをした後に、先ほどバッツが薬を塗った箇所に小さな手が伸びる。痒みを感じるのか、ジタンは指先でその場所を引っかいた。
「……っ」
刺激が強かったのか、ジタンは肩を震わせて手を引っ込めてしまった。その一部始終を見つめていたバッツが、ジタンが掻いた場所に再び指で触れる。するとジタンがバッツの指から逃げる様に身を屈め、毛布の中に頭を半分ほど埋めてしまった。バッツは毛布に遮られた首を触るのを諦めて再び様子を見ると、痒みが治まったのかすぐにジタンの静かな寝息が聞こえてくる。
「可愛いな」
バッツが塗ったものは、感覚を鋭くする効果のある―――いわゆる媚薬のようなものだ。僅かな量しか使わなかったためすぐに効果は切れてしまったようだが、ジタンの可愛らしい反応はバッツを十分に満足させる結果となった。
今回は首だけだったが、体のそこかしこに触れたらどんな可愛い姿を晒してくれるのだろう。
バッツは己の口角が上がるのを感じると、それを諌めるように両手で顔を揉み解した。そして手を離すと、いつもスコールやジタンに見せる穏やかな表情に戻っていく。
(我慢、我慢……)
己の欲を無理にでも小さな体にぶつけるのは容易いが、これまでに築き上げたジタンからの信頼は一瞬にして消え失せるだろう。それはバッツの望む所ではない。
ジタンがバッツに惚れてくれたら話が早いのだが、明らかに女性を好んでいる彼の様子を見るに、その可能性は低いように思える。それならば、ジタンが身も心も預けられるに値する存在になろう。
それまではまだ、バッツの胸の奥に潜むどろりとした感情を悟られるわけにはいかない。親友として隣で笑い合い、ジタンの心に入り込んでいくのだ。
じわりと、砂に水を吸い込ませる様に。
共に過ごす時間が増えて気が付いた事だが、ジタンは人当たりも良く仲間の為なら危険も辞さないわりに、どこか一歩引いている印象を受けた。勿論それは仲間を信用していないなどというマイナスの意識から来るものではない。バッツもまた仲間に対しに好意はあれ深入りしようとはせず、適切な距離感を保っている。
そんな中、ジタンがバッツとスコールの側を『居場所』とした事は素直に喜ばしい事だった。笑顔を絶やさない少年が、自分達の前では疲れた顔を隠さず、肩の力を抜いている。夜は半々の確立でこちらに背を向けて寝ているので、それならばとそっと後ろから抱きしめてみても起きる気配はなく、耳元に触れた唇がくすぐったいのか何度か身動ぎをする程度だ。まるで警戒心が無い。
唇で触れたジタンの肌は甘く、この白肌に赤い花を散らせばどれほど扇情的な光景になるだろう。遠くない未来にそれを実現させる気でいるバッツはジタンの首に口付けながらほくそ笑む。
そのまま抱き込んで眠ってしまったせいで、翌朝、身動きが取れなくなっていたジタンに苦言を呈される事になるのだが、呆れた顔も可愛いななどと思いながらジタンを見つめるバッツに悪びれた様子はなかった。
ジタンを抱き枕にして寝ていても、重苦しいことへの文句は言われても嫌悪感は抱かれていないと分かってから、元々多めだったスキンシップを更に増やしていった。後ろから抱きつきながら話かけてもジタンは笑いながら「重い」と言う程度で拒否を示す事はない。そんなバッツの行動にジタンも感化されたのか、テントで休んでいるバッツを背もたれにして寄りかかってきたりするようになった。スコールにも同じ事をしては、スコールも満更ではない様子を見せるのは微笑ましい光景だった。
そんな日々にジタンがすっかり慣れきってしまった頃。
バッツは暗がりで辺りを見渡しているジタンの肩に手をかけ、彼の耳元にそっと囁きかけた。
「ジタン」
「うわっ」
バッツが近付いて来ていた事に気付いていなかったジタンは驚きに肩を跳ねさせると、ぶわりと尻尾の毛を逆立てた。バッツもそんなジタンの反応に驚き咄嗟に掴んだ肩を離す―――フリをする。
「バ、バッツ……」
「驚かせたみたいで悪かったな。起きたら居ないから心配になってさ」
「そ、そっか。こっちこそ黙って出てきて悪かったよ……」
冷たい闇と空気が体に纏わりつくような深夜帯。いつものように三人で眠っている中、ジタンが静かに身を起こし、そっとテントを抜け出した。寝たふりをしていたバッツはすぐにジタンの後を追い、テントから少し離れた場所でジタンが歩みを止めたのを見計らって声をかけたのである。
ジタンがこうして抜け出すのは今回が初めてではなく、バッツは何度かそれを確認をしている。眠る格好のまま抜け出すので遠くへ行っているわけではないと察する事ができ、さほど時間も経たずに戻ってくるのでジタンが何をしに外へ行っているのかは容易に想像することができた。
気まずそうに視線を泳がせ、尻尾を揺らす姿をバッツは目を細めて見つめる。さながら可愛らしい獲物を追い詰めた大型獣のような心境だ。バッツは再びジタンの耳元に口を寄せ囁きかけた。
「抜き合いしてみるか?」
「―――は?」
バッツの言葉にジタンが気の抜けた声を出す。しかしバッツの言葉の意味するものに気が付くと、闇夜の中でも分かってしまうくらいに顔を上気させ、頬を赤く染め上げた。
「な、な……っ」
「抜こうと思って出てきたんだろ? まあ、こんな生活してたら溜まって辛いよな」
時々テントを抜け出している理由は、つまるところ性欲処理のためである。現場を覗き見た訳ではないが、ジタンの反応からバッツの予想は当たっていたようだ。後ずさるジタンに一歩踏み出し、退路を塞ぐように距離を詰めていく。
「発散するのは恥ずかしい事じゃないだろ。おれもしないわけじゃないし。おかずも少なくて苦労しているんじゃないのか?」
「ま、まあ、それは……」
男性に比べて女性の数が少ない事に加え、ジタンが彼女達を性的な目で見ているとは思えない。故郷には自慰行為に適した本があった記憶がおぼろげにあるが、もちろんそんな物はこの世界には流通していない。
「丁度おれも溜まっててさ。助け合いだと思えば割り切れるだろ」
「……っ」
どう答えればいいのか分からず顔を引きつらせるジタンの肩を軽く押して地面に座るように促す。ジタンが拒否すれば手を離すという意思表示のある力加減だ。もっとも、それはジタンに警戒させないようにするためであり、バッツはこの機会を逃すつもりはないのだが。
ジタンは尻尾をせわしなく揺らしながら、バッツに促されるままゆっくりと膝を折った。それにバッツは隠し切れない笑みを口元に浮かべる。地面に腰を下ろしたジタンのズボンに手をかけようとすると、ジタンが服の端を掴んでそれを阻み、落ち着かない様子で呟いた。
「さすがにこれは恥ずかしいんだけど……」
「裸なんて水浴びの時に見慣れてるじゃん」
普段から昼の屋外で互いに裸体を晒しているのに対し、今回は暗闇の中で下穿きをずらす程度の露出で済ませようとしている。
「状況が全然違うだろ」
あっけらかんとした物言いにジタンは脱力しているようだが、バッツはあえてジタンの緊張を解くような言い回しをしている。虫の音色だけが耳に煩い深夜、互いの顔が付きそうなほどに密着して性器に触れようとしている今では、ジタンの言う通り状況がまるで違う。友人に対し欲を晒す羞恥と背徳感は、やけに情欲を煽らされる。服越しに触れたジタンの雄の硬さに興奮が見て取れ、バッツも下肢にじわりと熱が帯びるのを感じた。
もう一度ジタンのズボンに手をかけると、今度は素直にそれに応じてくれた。ジタンもこの場の非日常な空気に流されてきているのだろう。
「うわ……」
雄に直接触れられたジタンが小さく声を出し、体を震わせた。構わず根元を握ると、ジタンの後ろで揺れていた尻尾の毛がふわりと逆立っていく。
「な、触ってもらったほうが気持ちいいだろ?」
「う……」
ジタンは頬を染めながら、男の手に掴まれている己の雄を見つめる。バッツが指を動かすと、それに応えるように尻尾の先が震えた。羞恥が勝つのか、素直に「気持ちいい」とは口にできずにいる様だ。
(可愛いなあ)
自分の手によってジタンが情欲に濡れ乱れる姿は散々想像してきたが、現実のジタンの吐息や触れる肌の熱は生々しくバッツを煽り立てる。
「あ……っ」
先端を抉るように指先を擦り付けると小さい唇から声が漏れた。―――ああ、この声を聞きたかったと、バッツは湧き上がる歓喜とともに感慨に浸かった。ジタンの声は想像していたよりも何倍も甘く、麻薬のように鼓膜を刺激してくる。バッツはその声をもっと引き出そうと、手の中の雄を握りこみ、先端に向かって強く扱き上げた。
「ひぁっ、バッツ、待て……っ」
「途中で止めたほうが辛いと思うけど」
「そ、それは……、あっ」
ジタンの雄を握ったまま先端の張り出した部分を指先で弾いてやれば、そこは素直に反応を示す。肉の側面に親指を沈めるように圧迫してやれば、それは重力に逆らって上にそそり立っていった。
「は……っ」
ジタンは漏れる声を抑えるように手で口を押さえつつも、他者の手の中で育つ己の欲から目を離せずにいる。くっと寄せられた眉と震える睫毛は、幼さのある容姿に相反して妖艶さを醸し出し、バッツの視線を奪う。
「ん、ん……っ」
ジタンの息遣いが途端に乱れたかと思うと、びくりと全身を大きく震わせた。そしてぽたりと黒い土の上に白濁の液が落ちる。思っていたよりもあっけなく果ててしまったが、自慰をしようとする程に溜め込んでいた所に外部から刺激を与えられたのだから当然の結果だろう。
「……気持ち良かったか?」
「う……、まあな」
息を整えながらジタンはバッツの視線から逃れるようにそっぽを向いた。手で押さえていたため僅かに濡れた唇と、上気した首筋。それに思い切り噛み付いてやりたいという欲求がバッツの中に生まれる。そんな衝動を抑えている事を知ってか知らずか、バッツに視線を戻したジタンがよろけそうになりながら体を動かし、バッツに身を寄せてきた。
「次、お前の番」
「ん?」
「ん?じゃねえよ、バッツも抜きたくてオレに声かけてきたんだろ」
抜き合いをジタンの体に触れる口実にしていた事を思い出す。自分が触れたい気持ちばかりが先行してすっかり頭から抜けて落ちていた。
自分の服を整えたジタンが、バッツの下肢に触れてくる。タイツを脱いで寝ていたため、トップスの下はすぐに下着という状態だ。月明かりだけが淡く降り注ぐ暗闇の中でジタンは気付いていなかったようだが、それは下着の上からもはっきりと存在を主張していた。
「う、うわ……」
バッツの体に触れた事でその事にようやく気付いたジタンが思わずといったふうに声を漏らした。ジタンは怯えるように手を引きかけたが、すぐに思い直しバッツの下着に手をかけ、布の下に隠されていた性器を外気に晒した。体格差のせいもありジタンのものとは質量がまるで違う。それが興奮を露にしてそそり立っているのだから、怯むのも仕方がないだろう。
「ここまで溜め込んでいたら、そりゃ辛いよな……」
そして同情されてしまった。
ずっと触れたくて仕方のなかったジタンの肌に触れ、艶やかで甘い声を引き出すことができたのだ。ジタンの一挙一動に興奮してしまった結果なのだが、バッツは苦笑いを返すだけに留めた。ただの欲求不満だと誤解されているのなら、そのほうが都合がいい。
ジタンの手が逞しい雄に触れると、その感触に緩んでいたバッツの唇が引き締まった。ジタンにも囁いたように、他者から与えられる刺激は己で慰める時とは比べ物にならない快感となり、背筋が震える。
目を細めながらジタンを見れば、及び腰ではあるものの真剣な顔をしてバッツの雄を両手で握りこんでいた。ジタンの手が己のもの比べて一回りは小さい事を改めて認識させられる。その手がバッツの性感を高めようと動くさまを見ては、体の奥からふつふつと情欲が湧き上がってくる。それはジタンの手の中のものに直結し、反応に驚いたのかジタンの口が僅かに開いた。
(ジタンの口も小さいから、入れたら苦しくなっちゃうかな)
そんな事を思っていると、ジタンが顔を上げ、眉を寄せながらバッツを見上げてきた。
「お前、本当に大丈夫か?」
大丈夫か、というのは、ジタンが手にしているバッツの雄のことである。あまりに育ちすぎて心配になってきたようだ。
これ以上見ているとジタンを襲いかねないと判断したバッツは目を伏せ、高まり過ぎた思考を落ち着けるために深く息を吐く。
やがて吐き出された精で手を汚してしまったジタンを直視することができなかった事は、少し残念だった。
翌朝、後から起きてきたジタンがバッツと目が合うと気まずそうにするそぶりを見せた。それに対し普段と変わらぬ笑顔を向けて朝の挨拶をすると、ジタンはあからさまにほっとして肩の力を抜く。昨夜の一件でバッツとの関係性が変わる事を恐れていたのか―――そう想われていたのだとすれば親友として信頼関係を築き上げてきた我慢と努力の賜物だ。
ジタンはバッツにそっと近付くと、スコールに気付かれぬように耳打ちをしてきた。
「お前、スコールにもあんなことしてるのか?」
予想外の言葉に今度はバッツの体から力が抜ける。スコールの事は親友として好ましくはあるが、ジタンに対して向けているような薄暗い欲望は抱いてはいない。もっとも、そんな下心を隠しながらジタンに触れたせいでそんな誤解が生まれたのだろうが。
「うーん、スコールにそんな事したら泣いちゃいそうだし」
「確かに……」
スコールとの関係を否定すると、ジタンは苦笑しながらそれに同意した。そしてスコールに仕掛けた場合の反応を想像し、二人の間に笑いが溢れる。そんな様子を何も知らないスコールが不思議そうに見つめていた。
「待て、バッツ。ちょっと待て」
困惑気味のジタンに顔を押し退けられ、まだ早かったのかとバッツは少し考え込んだ。
ジタンがそんな反応をするのも無理はない。ジタンを地面に押しつけ、小さな体にのしかかっているのだから。
ジタンの体に触れるようになり、それが二度や三度ではなくなった頃、ジタンと二人きりになる機会が訪れた。戦況や目的に合わせて単独行動や組む仲間を変えているため、常にスコールを含めた三人でいるわけではない。そして今、ジタンとの関係に変化が訪れから初めての二人行動となったのである。この好機を逃すまいとバッツがジタンに触れると、既に慣れきっているジタンは警戒することもなくバッツの手を受け入れた。
しかし、テントの床に押し倒して白いシャツに手をかけるに至ると、焦ったジタンがバッツの体を押し退けようとする。腕の長さが足りず、押し退けきれない所が可愛らしい。
「脱いだほうがやりやすいじゃん」
「そりゃそうだけど、上まで脱ぐ必要はないだろ」
これまでは人目を忍んでいたこともあり、ズボンをずらす程度の露出に留めていた。それは少々窮屈で、さらに精液で服を汚しかねないため、二人きりの今夜にズボンを脱ぐ事にジタンは否とは言わなかった。しかし今まで通りの抜き合いを想定していたのか、バッツが上着まで脱がせようとしている事に困惑している。
「それになんで乗っかって……って、嫌な予感がするな」
こうしてジタンを押し倒すのも今回が初めてである。愛しい小さな体を組み敷きたい衝動に堪えつつ実行してこなかった事は褒められたいくらいなのだが、ジタンはバッツのそんな心境など知る由も無い。
しかし、性的な行為をしようとする流れで押し倒されたとなれば、さすがにその意図を察したようだ。
「せっかく二人きりなんだしさ、もっと気持ち良いことしようぜ」
バッツがにこりと笑いながらそう言えば、ジタンの顔が引きつった。
「お、お前まさかオレに入れようとか考えてないよな?」
「そのつもりだけど」
「それで気持ち良いのはバッツだけだろっ」
「……んー」
ジタンが返した言葉にバッツは笑みを浮かべた。抵抗されるのは覚悟の上だったが、思いのほかジタンが好感触な反応を示したからだ。
この言葉を都合の良いように解釈すると、ジタン自身も気持ち良くなるのならバッツとの性行為を受け入れる意思があるという事になる。ジタンがそのつもりで言ったのかは分からないが、利用しない手はない。
「そんな一方的な事はしないって。ちゃんとジタンも気持ちよーくしてやるから」
「う、うわ、マジか」
狼狽えるジタンの隙をついて白いシャツを引っ張り上げれば、すでに下穿きを脱いでいることもあり生まれたままの姿となる。同性同士、お互いの裸体を見るのは慣れてはいるが、ようやく目の前の身体が手に入るのかと思うと眺めは格別である。それが表情に出てしまったのか、ジタンが身を固くした。
(おっと)
ここで警戒されては今までの努力が水の泡である。今ではすっかり作り慣れた笑みをジタンに向けた。
「もしかして怖いとか」
「な、そんなんじゃねえよ」
生娘のようだと揶揄されたと思ったのか、ジタンは開き直ったかのように体の力を抜いて床に裸体を投げ出す。そんな様子が可笑しくなり、つい笑い声を漏らしてしまった。ともあれジタンは覚悟が決まったのだ。バッツはくすくすと笑いながらジタンの胸に触れる。
「ん……っ」
指が先端を掠めると、そこはぷくりと立ち上がる。
「男の胸なんか触って何が……あっ」
硬くなった胸の飾りを摘まれたジタンが身を震わせ、息を呑んだ。ジタンの言う通り女性のような膨らみはないが、しなやかな筋肉に指が沈み、肌の感触は十二分にバッツを楽しませる。指の間で胸の突起を挟んでやれば、ジタンの唇から甘い声が漏れた。
「は、ん……っ」
「今日は近くに誰もいないから、声、我慢しなくてもいいぜ」
いつものように自分の口を塞ごうと動いたジタンの手を、バッツは掴んで止める。それにより抑えられなかった熱い息を吐いたジタンは、己に覆いかぶさっているバッツを、目元を紅潮させながら睨み上げた。
「男の声なんて聞きたいのかよ」
その問いは、初めて会った時の会話を思い出させる。
「聞きたい」
そしてその時と同じくバッツが肯定すると、ジタンはまた呆れたような顔をするのだ。あの時と違う所があるといえば、表情に艶めかしさが帯びている所だろうか。それを引き出しているのが自分なのだと思うと薄暗い悦びを感じる。
「あ、あっ」
与えられる刺激ですっかり硬くなったふたつの突起を親指で同時に潰してやれば、ジタンの口から再び吐息が漏れた。そのまま小柄な胸回りを掴むのは容易で、突起を愛撫しながら脇をくすぐってやればジタンはふるりと体を震わせる。くすぐったさ以外の感覚を拾っているのは明確で、悩ましげに眉を寄せながらバッツの手の動きを眺めていた。
(食べちゃいたいな)
素肌に触れる機会を伺い続け、いざその時が来ると、今度は舌を這わせ味わいたくなる。己の中に尽きることの無い欲望を感じ、バッツは獲物を捕らえた獣のように舌なめずりをした。だが、視線を下へ向けているジタンはそれに気付かない。バッツの手を見つめる瞳には、年相応の性への好奇心が見てとれた。
そんなに愛撫をされているさまを見たいのならと、バッツは両脇を掴んだ手で、体のラインをなぞるようにジタンの腰まで手を滑らせていった。
「んあ……っ」
その感触にジタンが身震いする。揉むように指を動かして肌の触り心地を味わいながら撫でているのだから当然の反応だろう。快感に尻尾を捩る姿は扇情的で美しい。
腰のくびれに手がひっかかる。男にしてはやけに細いそれを掴み揺するのが待ちきれないが、先に約束した通りきちんと快楽を与えてやる必要がある。痛みが勝ってしまうと二度目はないような気がするからだ。バッツは一度限りの関係で終わらせるつもりはなかった。
「お、勃ってるじゃん」
バッツの指が辿り着いた先は、今では触れ慣れたジタンの雄の象徴だ。慣れたとはいえ何度でも触りたくなるそれは、すでに天を向き始めている。胸への愛撫と、テント内の淫らな空気に煽られたのだろう。
「人のこと言えるのかよ」
頬を染めて悔しそうにジタンが言い返す。バッツのむき出しの雄もまた、硬さを帯びて欲を主張していた。
触れられていないのに勃ってしまっている事にすでにジタンは疑問を抱かずにいる。それ程に欲求不満だと思われているのだろう。ジタン可愛さに体が反応しているだけだと気付いていたらこんなに無防備でいられるはずがない。
「じゃあ、早く気持ちよくなろうぜ」
「―――っ」
きゅっと雄を握れば、ジタンの腹に力が籠もる。手にすっぽり納まるそれはバッツの指が与える快楽を覚えてしまっている。素直に手の中で硬く育っていく感触を楽しんでいると、いつもするようにジタンもバッツの下肢に手を伸ばしてきた。
「は……」
根本をきつく握られたバッツは吐息を漏らした。体の中心は強く反応を示し、ジタンの握った手が一瞬怯む。向かい合って触り合っていた時とは違い、今はジタンを組み敷いているのだ。擬似的に情交を結んでいる感覚に陥ってしまうのも無理はない。バッツの興奮が伝染したのか、手の中のジタンの雄もいっそう硬くなっていった。
「バッツ……、うあっ」
そのまま達しそうになっていたジタンの精をせき止めるように手に力を入れると小さな悲鳴が上がる。いつもならそのままイかせてやる所なのだが、この後の行為を考慮してそれを許さなかった。
「このまま出したらいつもと変わらないじゃん?」
「お、お前本当に……」
雄を握ったまま、もう片方の手で二つの膨らみの下を探り、硬く閉ざされた秘所に行き着く。そこに指先を食い込ませれば、達せない辛さと未知の恐怖でジタンの表情が歪んだ。
「む、無理……っ」
「ジタンはおれの大きさ、よく知ってるもんなぁ」
「んな冗談言ってる場合かっ」
ジタンは身じろぎをするが、急所を掴まれているからかバッツの下から逃れられるほど大きく動く事ができずにいる。バッツはそんなジタンに満遍の笑みを浮かべると、ゆっくりと中に指を挿入させていった。
「あっ、あ……?」
滑りを帯びた指がするりと入り込み、予想外の感覚にジタンが混乱する。
バッツが指に纏わせたのは、いつかの夜にジタンの首に塗ったものと同じ薬だった。あれから何度か改良を加え、快楽を引き出す事に特化した完全な媚薬を完成させていたのだ。
「な、なに……?」
ジタンの可愛らしい抵抗が止むと、中に入れた指に伝わる体温が上昇していくのを感じる。バッツが軽く内壁を撫でてやると、ジタンの下半身が大きく痙攣した。
「ひあっ」
「気持ち良くするって約束しただろ」
「やっ、待て、何……っ」
「さすがに初めてはキツいと思うから、気持ち良くなるようにおまじない」
そう戯けて言ったバッツは、ジタンのものからそっと手を離した。それは硬く張り詰めているが、達することはない。触ってやらないと射精できないからだ。いずれ触れなくても出せるように仕込んでみよう、そう想像するだけでも胸が躍る。
指の腹で入口を撫でてやれば、そこはきゅっと収縮した。
(早く入れたいなぁ)
気分が急くが、ジタンの体を傷付けるわけにもいかないので、潤滑油代わりに中に塗り込む媚薬の量を増やした。滑りを確認するように指を奥に入れ、一気に引き抜く。それを繰り返すたびにジタンの口から抑えることのない声が上がった。
「や、やだ、あ……っ」
「なに、気持ちいいって?」
「あぁっ」
言い返す余裕のないジタンに指の第二関節まで入れると、バッツの指を締め付けてばかりだったそこが、ひくりと蠢き始めた。それにバッツの口の端が吊り上がる。
「ん……っ」
薬ですっかり濡れたせいか、内壁と指の間で粘膜のような音が発生する。そのまま指を抜き去ると、水分で潤む緑の瞳がバッツを見上げた。物欲しそうな目だと、そう感じてバッツの中心が疼く。
バッツはジタンの細腰を掴むと、解した窄まりに張り立った雄を押し当てた。
徐々に中に侵入させれば、熱い内壁が待ち構えていたかのように絡みついてくる。
「ん、ん……っ」
ジタンは眉を寄せて挿入に耐え、己の腰を拘束バッツの腕に手を掴んだ。それは制止する意図ではなく、込み上げる性感に堪えるためだろう。いっそう奥に突き込んでやれば、泣きそうな目でバッツを見上げてくる。
バッツに小児性愛の趣味はないが、小さな体を閉じ込めるように覆い被さり、細い腰に凶器のような性をぶつけて蹂躙するこの状況は、ひどく情欲を煽るものだった。
「は……っ、ジタン、可愛い」
「んあぁ……っ」
ジタンが正気であれば怒られそうな言葉を呟きながら、腰を掴む手に力を込めて内壁を抉るように、雄の張り出した部分で擦り上げる。
抜こうとする動きをすれば、入口が締まってそれ阻もうとする。それによってバッツの性感が高まり、中をより圧迫していった。
「バ、バッツ……っ」
「ん……っ?」
「ひぁっ」
ジタンの体から与えられる快楽に集中していると、切羽詰まった声で名を呼ばれた。そしてつい加減を誤って強く突いてしまうと、ジタンが悲鳴を上げる。
「も、もう無理……っ」
「―――ああ」
繋がっている部分に視線向ければ、そこには痛々しいほどに反り返っているジタンのものが見えた。解放されたくて仕方がないのだろう。バッツは再びそれ握ってやれば、ジタンが感じ入った息を吐いた。
「あ、あ―――っ」
前を扱きながら中を突けば、ジタンは体を痙攣させながら白濁の液を吐き出した。
「ん、んう……っ」
「ふ……っ」
長く我慢させられていたからか射精はだらだらと長く続き、ジタン自身の腹に精を垂らしながらバッツの雄を締め続けている。それにはたまらずバッツも中に性を放つ。
「はあ……」
バッツが大きく息をつくと、疲れ果てたのかジタンはぼんやりとした顔で天を仰いでいた。中から雄を引き抜けば、繋がっていた場所から白濁の液が漏れる。
「ジタン……」
汗で額に張り付いた金の髪を指で払ってやりながら、二人分の性液で体を汚したジタンを見下ろす。放心しているジタンの表情は艶めかしく、このままどこかに閉じ込めてしまいたい欲求を抑えながら金の髪を撫でる。
「次は薬なんて使わなくても気持ち良くしてやるからな」
そう囁くと、我に返ったジタンが、抗議するかのようにバッツの腕を尻尾で叩いた。
終わりの見えない闘いに身を投じ続けなければいけない世界でも、この愛しい体も心も自分だけで満たすことができるのなら悪くはない。
そう、思っていた。
「ほんとに信じちゃダメなのか……?」
ジタンの悲痛な声に、バッツは飛びかけていた意識を取り戻した。
ゆっくりと瞼を開くと、すぐそこに地面が見える。己が地に伏しているのだと理解するのと同時に、それに至った経緯を必死に整理した。じわりと全身に痛覚が戻るのを感じ、自分が戦いに敗れた事を思い出す。顔を上げるとそこにはジタンがいた―――が、金の髪がぐらりと揺れると、両手に持っていた剣が消滅した。そのまま倒れるジタンの姿がスローモーションのように映るその向こうに、銀の髪が見える。青みを帯びたその瞳は倒れたジタンを感情の読めない表情で見つめていた。
(まずい……)
このままでは全滅だ。そうバッツが焦燥に駆られていると、すぐ近くで何者かが動く気配を感じた。見なくても分かる、スコールだ。バッツと同じく一時的に気を失っていたのだろう。
しかしジタンは倒れたまま動かない。気絶したのか、あるいは動けずにいるのか。バッツは敵に悟られぬよう己の体の状態を確認する。これ以上戦うことはできないが、隙を見て逃げる体力は残っていそうだ。そう思考を巡らせていると、ジタンを見つめていたクジャの瞳がバッツのほうへと向けられた。
「…………?」
バッツが意識を取り戻している事をはっきりと確認したはずのクジャは何をするわけでもなく、視線をジタンに戻す。そして再びバッツを目配せをした。
まるで、なにかの合図のように。
(……もしかして)
この状況であれば自分達に止めを刺すことなど容易いだろうに、“この場を去る事ができる程度の”体力を残し、失神させるだけに止めた。それも、ジタンが倒れる頃には意識を取り戻すことを見越して。
戦闘に巻き込まれるのを面倒がったのか、ケフカはクジャから少し離れた場所でこの場を眺めている。クジャの背しか見ることのできない道化は、クジャが足元に倒れているジタンを見つめているようにしか見えないだろう。
―――そういうことか。
バッツは体を起こすと、手元に意識を集中させる。
素早く相手に投げつけ、意識を逸らすことができる武器。そうイメージして現れたのはカインの持つ槍を模したものだ。それをクジャへ投げつけるのと同時にバッツは地面を蹴った。
槍はクジャの足元に勢いよく刺さった。クジャがそれに怯む―――素振りを見せている隙に、バッツはジタンの体を抱え上げる。しかしそれだけでは欺けることはできまい。薄ら笑いを浮かべる道化の目は。バッツがジタンを抱えたまま後ろへ飛びのけば、スコールの放った魔法が二人の間の地面に炸裂した。スコールの動きを信じた上での賭けは成功したようだ。
「行くぞ!」
再びスコールが魔法を打ち込み、土煙が収まる前に脱兎のごとくその場から逃げ出す。クジャが追ってくる事はなかった。当たり前だ、銀の髪のあの男は、バッツとスコールを利用してジタンを逃がしたのだから。
獲物に逃げられた彼のその後がどうなるかは分からないが、バッツにとってはジタンの無事が最優先だ。抱えた体はぴくりとも動かず、尻尾も力なく垂れ下がったままだが、触れる皮膚の下の血流の動きが命を繋いでいる事を感じさせ、バッツを安堵させた。
「スコールの魔法が残っていて助かったな」
逃げる途中で見つけたひずみに飛び込み、それを抜けた先の土地で三人はようやく休息を取ることができた。
スコールが残していた三人分の回復魔法で、傷や打ち身はすっかり回復している。スコールの魔法は特殊で常に使えるという保証がないため、普段は使用することは少ない。もしもの時のために残しておいたそうだが、今がまさにその時だろう。バッツは毛布に埋もれながらいまだ動かないジタンを確認してからスコールに顔を向けた。
「スコールはこのまま寝ていいぜ。ジタンはおれが見てるからさ」
「だが……」
スコールが毛布の山を見て眉を寄せる。ジタンが心配でたまらないのだろう。
「おれとスコールが揃って寝不足だと、何かあった時に困るだろ?」
この言葉に嘘はない。しかしバッツにはクジャ達が追って来ないという確信があった。あの場に残されたカオスの者達が追おうとすれば、クジャがそれを止めるだろう。
それを伝えないのは、これからする事に対してスコールが起きていると都合が悪いからだ。そんなバッツの思惑に気付かないスコールは「それもそうだな」と素直に応じた。
テントの床に寝そべったスコールが眠ったのを確認すると、バッツはスコールの額にそっと指を当てる。指先から淡く小さな光が一瞬放たれた。
「……スリプル」
スコールにかけたのは、少ない魔力でも扱える眠りの魔法だ。スコールの肩を軽くゆすり、深い眠りについた事を確認する。ここまで効いてしまうのはスコールがバッツに対して警戒心がないからこそなのだが、先ほどジタンが手酷い裏切りを受けるのを見た直後だというのに、それでもバッツを微塵も疑う事をしないようだ。それはされるがままにここまで運ばれてきたジタンにも言える事なのだが。
「起きてるんだろ、ジタン」
「…………」
バッツの声に、ジタンの尻尾の先がぴくりと動いた。しかし動いたのはそれだけで、毛布の山が動く様子はない。
「ジタン」
バッツはその毛布を捲り、自分達に背を向ける形で横になっているジタンの肩にそっと触れた。そこでようやくジタンの口から吐息が漏れる。
「……ごめん」
搾り出すように出された、謝罪の言葉。
それは二人を巻き込んだ事へ対するものなのか―――バッツがジタンの肩を引いて仰向けにさせると、淀んだ緑色の目がバッツを見上げた。泣きたいだろうに、涙を流すことはしない気丈さ。しかし、初めて瞳を見つめた時の綺羅星のような精彩さはない。
バッツは決してジタンにこんな顔をさせたいわけではないが、今までに見せたことがない憔悴しきった表情をさせたのが自分ではなかったことに酷い苛立ちを覚えた。これが他の仲間の誰かが起こした行動だったら、真っ先に何か事情があるのではないかという疑問を抱くだろう。しかしジタンは裏切られたという事実だけに捕らわれ、冷静な判断を失っている。そこまでジタンが心を砕いていた人間が、バッツやスコール以外にいた事に今まで気付けずにいた。
バッツが手に持った毛布を乱暴に投げ捨てると、虚ろだった目がはっと見開かれる。
「…………バッツ?」
ようやく己の存在をジタンに気付いてもらえた、そんな印象を受けた。バッツはジタンの頭の横に両手を付くと、小さな体に覆いかぶさるように乗り上げた。バッツの行動に理解が追いついていないのかジタンは戸惑いの表情を見せたが、ズボンに手を掛けられるに至り、行動の意図を察したようだ。
「なあ、そんな事する気分じゃ……、―――っ」
拒絶を口にしかけたジタンが息を呑んだ。脚の間に差し込まれたバッツの指に冷たく滑るものが纏っていたためだ。
ジタンはそれが何かを知っている。初めて体を繋げた時に使った媚薬だ。
「バ、バッツ、それ嫌だっ」
「ああ、スコールは起きないから、声は我慢しなくていいぜ」
「そういう問題じゃ……、ひゃっ」
バッツが強引にジタンの中に指を突き入れると、軟膏の滑りによって人差し指の根元まで抵抗なく埋まっていった。そして薬を塗りつけるように内壁を擦れば、指の動きを止めるかのように強く締め付けてくる。
「ん、う……っ」
媚薬が粘膜に吸収しむず痒さを感じるのか、ジタンのつま先が床を掻いた。バッツはその足を捕らえ、下履きを脱がせようとする。するとジタンが足に力を入れて抵抗を示してきたので、中に入れる指を二本に増やした。
「あ、あっ」
傷を付けぬよう加減をしながら指先で中を引っ掻くとジタンの内腿がひくりと痙攣し、抵抗が止む。その隙に足からズボンを抜いた。そのまま膝を押して足を開かせると、ジタンの中心が反応を示しているのが見える。硬くなり始めたそれを握ると、ジタンの口から悲鳴が上がった。
「あっ、やだ、触るな……っ」
「そうやっておれの事だけ考えて、嫌なことは忘れちゃえよ」
「ひっ、あぁ……っ」
バッツが身を屈めてそそり立つ雄を口に含むと、ひと際大きな嬌声がテントの中に溶けていく。同時に中に突き入れている指を動かしてやれば、口の中の質量が一気に膨れ上がっていった。
「あ、あっ、もう出る……っ」
ジタンは縋る場所のない手がバッツの頭を掴み、がくがくと太股を痙攣させた。限界の近いそれを濡れた音を立てて吸い先端に歯を立ててやると、強く髪を掴まれるのと同時に口の中に苦い精液が注ぎこまれる。バッツはそれを躊躇なく飲み込むと、力を失ったジタンの手を頭から離しながら体を上げた。
「は、は……っ」
ぐったりと横たわり、胸を上下させて呼吸をするジタンの潤んだ瞳がバッツを見上げる。まるで泣いているような表情をするジタンの頬を撫でながら、指で解した足の間の窄まりにバッツは己の雄を押し当てた。
「んう……っ」
達したばかりで辛いのか、ジタンの眉がくっと寄せられる。しかし媚薬の効果が持続している所為か、内壁は太い欲望を待っていたかのようにいやらしく絡み付いてきた。
「あ、う……」
互いの下肢が付くほどに奥へと突き入れて行くと、力ない声が耳に届く。心身ともに限界を訴えている小さな体を犯しているのだ。苦しそうにバッツを見つめるジタンは、この状況をどう思っているのか。
「ジタン」
この期に及んでジタンの心を離したくないと思ってしまい、愛しい人の名前を呼ぶ。すると先ほどまで生気のなかったジタンの瞳が、揺れた。
「……バッツっ」
ジタンが力の入らない腕を懸命に上げ、バッツの肩に触れる。バッツは促されるまま身を屈めるとその手は首の後ろに回り、縋り付くように抱きしめてきた。それにバッツは目を細める。
クジャの行動の意図をジタンに伝えれば、少年の心はいくらか救われるだろう。
しかし、バッツは口を噤んだ。こうしてジタンが縋ることのできる相手は自分だけでいい、そう思ってしまうのだ。
「バッツ……」
うわ言のように名を呼ぶジタンの声を遮るように、唇を重ねる。
結局、己の行動はどこまでも自分本位で、欲望を満たすだけのものでしかないのだ。
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