うしゃぎさん 4

「さてと、そろそろ帰ろうかな」
白い6枚の羽根がバサリと音をたてて開き、セレスの身体が宙に浮く。
「さっさと帰れ」
ポソっと呟いたジェイドの言葉をセレスが聞き逃すはずはなく、長いうさぎの耳が不機嫌そうにピクリと動いた。
「セレス…、帰る前に1つ頼みがあるんだが」
「ん?」
「『一人では叶えられない願い』がある、とジェイドに言われた時は何のことだかよくわからなかったが…、お前に会って初めてそれがわかった」
「え」
「プ、プラチナ様!?」
“一人では叶えられない願い”というのは“二人一緒でないと叶えられない願い”ということで。
つまりはそーゆーことで。
自分がそれを叶えるのだと一方的に決めつけていたジェイドは固まった。
「プラチナ様、願いがあるのなら私が叶えますから! そんな性悪ケモノにお願いなんてしないでください!」
愛しのプラチナ様があんなのと成就されるなんてたまったもんじゃない、とジェイドは必死に言い募るが、プラチナは申し訳なさそうに
「セレスでないとダメなんだ。すまない…」
とジェイドに謝る。
「あはははは! 見事にフラれたねぇ、ジェイド」
セレスの言葉がトドメとなり、ジェイドはポコンと地面に落ちた。
「それで、願いはなんだい?」
「叶えてくれるのか?」
「もちろんだよ」
にっこりと微笑むと、プラチナの瞳が喜びに輝いた。
「耳を…」
「は?」





「耳を触らせて欲しい」





先程からセレスの気象に合わせてピクピクと動いていた、見事な毛並みのウサギの耳。
あれに触ったら気持ち良いだろうな、とプラチナは思ったらしい。
「……………はぁ、………耳……………」
愛の告白でもされるのかと少し期待していたセレスの耳が、少し垂れた。
その動きを見て、プラチナが触りたそうにウズウズする。
「確かにそれは私では叶えることはできませんねぇ。ケモノの耳なんて持ってませんし」
同じく愛の告白をしてしまうのではないかと絶望に打ひしがれていたジェイドが、心底安心した声色で呟いた。
そんな両者の心の内を知るはずもないプラチナは、目の前にあるウサギの耳に釘付けだ。
「触ってもいいか?」
「…いいよいいよ。好きなだけ触りなよ」



プラチナの気が済むまで耳や羽根を触らせると、
うしゃぎの長は、ブツブツと言いながら天上へと帰っていった。




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